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□さようなら水浸しの世界
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ベッドにいくつも染みをつくりながらぐずぐずと泣いているのはゼロス。
慰めようにも理由が分からないからどうしようも出来ない。
でも俺の服を掴んで離そうとしないということはここにいてほしいということなんだと思う。
そんなことされたらほっとけるわけなくてずるずると時間ばかりが過ぎていく。


出来るだけ優しく理由を問うても、涙を拭っても、何も話さないでゼロスは泣き続ける。
何故泣いているのかだけでも話してくれればなんとか力になれるかもしれないのに、どうしたらいいだろう。
はっきり言って俺もかなり困惑してる。
こいつが旅の仲間に加わって随分経つけれどこんなゼロスは初めて見た。
リフィル先生がいればどうにかなっていたかもしれないけれど、残念ながら遺跡発掘のため不在。
というか俺とゼロスしか今宿にはいない。
オゼットから近い村ということでプレセアは村の様子を見に行ってるし、ジーニアスとリーガルもその付き添いでいない。
コレットとしいなは買い物係で出掛けててまだ大分掛かりそうだし。


本当に運が悪い。こんな時に限って全員いないなんて。
……いや、逆に良かったかもしれない。
こんなところをみんなに見られたら冷静になった時ゼロスが恥ずかしいだろうし。
それを考えると余計に俺がどうにかしてやらないといけない。
どうしたらゼロスが泣いているのか分かるんだろう?
どうしたら、どうしたら…。


未だに泣き続けるゼロスを見る。
長い間泣いているせいで目は赤くなってきてるし、声だって掠れて小さくなってきている。
胸の奥が痛む。すごくズキズキする。
ゼロス、お前はもっと苦しいんだよな?
話せないけど、分かってほしいんだよな?


分かりたい。お前の悲しさも苦しさも、全部。


いつもよりも小さく見える体をそっと抱きしめる。
嗚咽に合わせて小刻みに体が震える。
でも、時間が立つにつれて震えが小さくなっていってるのに気がする。
少しずつだけど泣きやんできているみたいだ。


相変わらず泣き声以外は聞かせてくれないけれど、その変化が素直に嬉しい。
手入れされた髪を手で梳くとさらさらと指の間を流れていく。
初めて触れたけど、すごく綺麗だと思う。
髪が流れていく様子に見入っていると、ゼロスが俺の腕の中でもぞもぞと動いた。
まるでもっと、と強請っているみたい。
試しにもう一度髪を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。
そうか、これ好きなんだ。
ゼロスが喜んでくれたことが嬉しくて何度も髪を撫でる。


いつの間にかゼロスは眠りについていた。
満足と言わんばかりの寝顔に俺はくすりと笑って囁く。


「おやすみ、ゼロス」


(俺の、大切な人)









夜、俺は目を覚ました。
そして目の前にあるのはロイド君の顔。
驚いて起き上がろうと頭を後ろに下げると何かが当たった。
良く見れば俺の体の上を通ってロイド君の腕が後ろに回っている。
そこまで分かれば後ろに何があるのかは容易に想像できる。
ロイド君の手だ。
たぶん、ずっと撫でてくれていたんだろう。


その優しさが嬉しくて堪らない。
ロイド君への愛しさで胸が一杯になる。
そしてその分募るのが恥ずかしさ。


こんなにも優しいロイド君を困らせてしまった。
泣いてばかりなんて、厄介以外の何でもないと分かっていたのに。


何か話すと要らないことまで言葉にしてしまいそうで怖かった。
二人だけの状況だと、ロイド君に俺の汚い部分まで見透かされそうで。
そんなの絶対に知られたくない。
明るい微笑みを向けてもらえなくなることは俺にとって唯一の光を見失うようなものだから。


だから言葉を封じた。


でもどんどんこんなことをしてる自分が嫌になって。
でも、ロイド君が俺のために必死になってくれてることが嬉しくて。
そんなことを思ってしまう自分は最低だと思うとまた涙が溢れて止まらなくなった。


優しい言葉にも、涙を拭ってくれる温かい手にも、応えれない自分が嫌になる。
俺の勝手でロイド君を振り回すなんてあってはいけない。
分かってる筈なのに行動はその逆のことばかりをしていて。


ごめん、ロイド君。


言葉に出さないと意味が無いのは分かってる。
でも、言えない。
何度も何度も頭の中で謝罪を繰り返す。


その時、体が温もりに包まれた。


最初は何が起きたのか分からなかったけど、髪を梳く優しい手でロイド君の腕の中なんだと分かった。
温かい。心臓の音がする。
規則正しく聞こえてくるその音が俺を冷静にさせていく。
そして俺の髪を梳く手がゆったりとしていて気持ちよくなる。
その動きが止まった時、思わず体を摺り寄せて強請るようなことをしてしまった。
恥ずかしい。俺は何をしてるんだろう。
困らせておいてこんなことをしてもらって。
こんなんじゃ全然ダメなのに。


とくん、とくん。


さら、さら。


目を閉じてもその温かさも優しさも変わらなくて。
いつの間にか俺はその穏やかな時に身を任せていた。


俺はあの時から今までずっと眠っていたんだろう。
こんなに熟睡することなんてなかったのに、泣くなんて慣れないことをしたせいだろうか。
いや、きっとロイド君がいたからだ。


ロイド君が起きないように、その胸に顔を埋める。


とくん、とくん。


その心音を聞いていると、長い間寝ていた筈なのにまた目蓋が重くなってくる。


ロイド君に謝ろう。
ちゃんと謝って、俺の気持ち伝えて、もしそれでも笑ってくれたら。


大好きって言おう。


でも、それもまた明日。


「おやすみ、ロイド君」


(俺の、大切な人)













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