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□ちゃんと生きているにおいがした
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「コーヒーとココア、どっちが良い?」


目が覚めて視線が合った時、その男は僕に問う。
そして何となく僕は答えた。


「……ココア」


はーい、と言ってキッチンに消える男の後ろ姿を目で追う。
何だかこいつとこうしていることが不思議でたまらない。


だってこんなのありえない。


僕は最後の最後まで姉さまを生き返らすことだけを願いロイド達と闘い続けた。
そしてロイドが僕を貫く。
痛みよりも、悲しみが僕を包んだ。
結局姉さまを生き返らせることも出来ずに死んでいく。
僕は一体何をしていたんだろう。
ロイドが剣を構えなおす。


ちらりと視界に映ったのは、泣きそうな顔のジーニアス。
本当は大好きだった。
もっとたくさん話もして遊びたかった。
でも、もうそれは叶わない。
ごめんね、ジーニアス。ありがとう。


そして、ゼロス。
何とも言えない表情で僕を見ている。
意外だった。
こいつのことだから散々自分を苦しめた僕を笑ってるのかと思っていたのに。
でも思えば僕はこいつのこと嫌いじゃなかったんだと思う。
そうじゃないとあんなに近くにおいておく訳が無いんだもの。


何もかもが遅すぎた。
謝罪するのも、感謝するのも。


頬を温かいものが伝う。
これは、涙?
そんなものとっくに出なくなったいたと思っていたのに。
でもどうして僕は泣いてるの?
姉さまを蘇らせることが出来なかったから?
ううん。何か違う。
何もかもが分からないまま、こんな中途半端で死んでいくのか。


ああ、そんなの、嫌だ。
僕はまだ生きたい。


「生きていたい」


きらきらと光る二本の剣。
覚悟を決めた二つの鷹の目。
ロイド・アーヴィング。
どこまでも僕と正反対の道を歩む男。


お前は、これからどう生きるんだろうね…。


静かに目を瞑る。


視界が、光に満ちた。


「…………な、何してんだよ!?」


いつまでもこない最後の痛みとロイドの声に恐る恐る目を開ける。
目の前には未だ光を絶やさない剣とこれ以上無いほど驚いたロイド。
そして、ロイドの腕を掴みいつも通り不敵な笑みを浮かべる、


「ゼロス…?」


からん、とロイドの片手から剣が落ちる。
誰一人言葉を発しない。
僕ですら予想しなかったこんなこと。


ゼロスが僕を生かした?
そんなの、


「有り得ないよ…」


「な〜に一人で話してんの?」


驚いて顔を上げると、トレーにカップを二つ乗せたままきょとんとしているゼロスの姿。
よく見れば服装がさっきまで着ていたいつもの服とは違う。
部屋着なのか、随分軽装だ。
無防備な奴。
僕が攻撃してこないとでも確信してるんだろうか。


(………攻撃する力なんて、僕には残ってないけど)


ゼロスがベッドに座ると、軽く体が沈んだ。
それだけのことに生きていると実感させられる。


「どうしてロイドの手を止めたの…?」


「……生きたいって、言っただろ?」


ああそうか。
こいつは僕のあの時の言葉が聞こえていたのか。
天使化の力、か。
僕が与えた力で僕が救われるなんて、冗談にもならないよ。
でもまさかその言葉だけで僕を助けるなんて思わない。
だって今まで僕はこいつらを散々酷い目に合わせたのだから。


「だからといって、僕の行為でどれほどの人間が死んだか忘れたわけじゃないだろう…?」


「……そりゃあな。でも、なんでだろう。まだ、生きてて欲しかった」


なんだよそれ。
全くもって訳が分からない。
こいつは何を考えてるの?
人間のすることは理解できないけれど、その中でもこのゼロスという人間のすることは予測がつかない。


目の前にカップを出される。
早く飲まないと冷めるぜ?なんて言ってウインクをしてきた。
あまりにお気楽なこいつの態度に軽く溜め息をついて、それを受け取り一口飲む。
甘い。
そう言えばココアなんて飲んだのいつ振りだろうか。
きっとまだ姉さまやクラトス、ユアンと旅をしていたころ以来だ。
ココアってこんなにも美味しいものだったっけ…?


ぽん、と頭に手が置かれる。
優しくて温かい、そうまるで、姉さまのような。


「おかえり、ミトス」


思ってもいなかった言葉に顔を上げる。
ゼロスの表情はどこか優しげで。


なんで、僕にそんなこと言うの。
なんで、僕にそんな優しく接するの。


そっと額に触れられて自分が泣いていたのだと気付く。
もう一度おかえり、と言われればもうなんだか堪らなくなって小さく小さく呟いた。


「………ただいま」


今更こんな風に接してもらえる立場じゃないと分かってる。
ここにいるべきなのかも分からない。


でも、許されるなら。


僕はまだ生きていたい。


(ゼロスとなら、生きていける気がした)




thanks! 人魚


ゼロスの気持ちは、捉え方にお任せ。


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