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□君が笑った、世界が揺れた
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あれから数日。
僕はなぜかゼロスの家で療養することになった。
それでいいのかと思ったけれど、僕に行くあてなんてある筈もなくこうしてここにいるしかない。
別に誰も僕がこの世界を壊そうとしたなんてしらないから冷たい目で見ることもないし。
けれど、居づらくて仕方が無いんだ。
自分の意思で続けてきた行為で多くの人間を死に追いやってきた。
その僕がこうやって何事もなかったかのようにここにいるのが、自分でもなんだかいたたまれない。


(でも、あれが僕の出来る精一杯だった)


ゆっくりと立ち上がり、ベランダに出る。
天気は良く日が当たって気持ちが良い。
二羽、小鳥が飛んできて大きな木の枝にとまる。
これが僕の壊そうとしていた世界。


(姉さま、僕は間違ってたの…?)


ゆっくりとしゃがみ込む。
やっぱり僕には太陽の光は眩しすぎる。
駄目なんだ。


(僕は生きたいなんて望んではいけなかったんだ)


背中に何かが被せられる。
ちらりと横を見れば赤毛が視界に入った。


「ゼロス…?」


「う〜ん。さっすが俺サマ!サイズぴったりっ」


陽気な声が聞こえたと思ったら脇に両腕を回されて、ずるずると部屋の中に引きずられていく。
抵抗しても所詮は子供の力。
大人のこいつに敵うわけがなくて為すがままになる。


「はい。バンザーイ」


「はっ?!」


ゼロスの言った言葉が理解できなくて思わず声を上げてしまう。
こいつ今なんて言った?
なにしろって言った?
こいつには色々世話になっている部分はあるけれど、こんな扱いをされるのは納得いかない。
僕は子供じゃないんだ。


「するわけないだろうっ」


「え〜折角服買って来てやったのに〜」


「服…?」


疑問を口にするとにやりと笑って手に持っていた紙袋から一着の服を取りだす。
元の僕の服と変わらない白を基調とした服。
でもどことなく高価そうなもの。
こいつがわざわざ僕のために…?


「なんでお前、僕のためにそこまでするの…?」


つい声に出してしまう。
でも、聞きたかったのは事実。
だって僕はこんなことをしてもらえるような扱いゼロスにしたことなかったもの。
会えば酷いことをして、言って。
姉さまを蘇らせるためにこいつを人間扱いしなかった。
だから本当はこんなぬくぬくと生き抜いているのはおかしいんだ。


「俺サマはな、ロイド君に教えてもらったんだ。生きるってのはなんなのか」


おちゃらけた声を消し、僕の目をじっと見つめる。
僕は何もかも見透かされそうでこの目が嫌いだった。
だから殴って、叩いて、蔑んで、こいつが僕を見ないようにしていた。


でも今は嫌だとは思わない。
むしろ、綺麗だと思ってしまう。


「だから、今度は俺サマがミトスに教えてやりたい。こうやって生きるってのも悪くないってこと」


へらりとそう言うゼロスの言葉はどこか重くて。
ああ、僕は生きるべきなんだって思った。
苦しいのは自業自得。
でも僕はその先に行かないといけないんだ。


「………服」


「うん?」


「服、着るから」


少しぶっきらぼうにそう言えば、嬉しそうに笑うゼロス。
こいつはこんなにも表情が豊かな奴だったか。
こんなにも綺麗に笑う奴だったか。
もっとこいつのこと知りたい、そう思った。


(世界が、色づいた気がした)



thanks! Wanna bet?


ゆっくりと、生を感じて。


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