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□その唇で伝えて
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※微破廉恥!









時間を見ればもう時計の針が重なろうとしていた。
ゼロスを見れば人の部屋だというのにまるで自分の家かの様にくつろいでいる。
まあ別に嫌なわけじゃない。
だけどこいつが飲み散らかしたビールやらなんやらのごみを捨てるのが誰か考えてほしいわけで。


ふうと溜め息をついて空き缶やらをゴミ箱に捨て始める。
大体なんでケーキを食べるってのにビールを飲みながらなんだ。
おかしいだろ。
ビールを飲みながらケーキを喰う奴なんて俺は未だかつて見たことないね。
そんなことを考えている俺にお構いなしにゼロスはと言えば今にも夢の世界に旅立ちそうになっている。
俺は慌てて起こしにかかった。
こいつが家に泊まるのに慣れているから良いけれど、風呂に入ってもらわないと明日の朝からこいつの朝シャンで起こされるかもしれないからだ。


でも完全に出来あがっているこいつがそう簡単に言う事を聞く筈なくて。
仕舞いには入れてくれなんて言い出す始末。
冗談じゃない。
なんで俺が酔っ払いの面倒みなくちゃいけないんだ。


脱衣所に連れていきある程度まで服を脱がすとちゃんと入れよ、と言ってドアを閉める。
あそこまですれば入ってくるだろうと思い俺は大体の片付けを済ましてテレビのチャンネルを適当に変えた。
生憎とチャンネルを変える手を止めるほどの面白そうなものはやっていない。
洗いものでも済ましとくかと立とうとした瞬間、浴室の方から痛っと声がした。
間違いなくゼロスが何かやらかしたのだろう。


がらりとドアを開ければ脱衣所の床にペタンと座り込んでいるゼロス。
あ、ユーリ君のえっち。
なんてへらりと笑って言ってくるこいつを俺が殴っても多分許されるだろう。
喚かれたら鬱陶しいのでぐっとこらえるが。
フラフラと壁に沿うように立とうとするゼロスはとてもじゃないけれど一人で風呂に入れる状態ではないようだ。
しかも、だから一緒に入ろうって言ったじゃん、と何故かゼロスに責められる始末。
それには納得いかないのだけれどこの際それしか手が無いらしい。
俺は覚悟を決めて自分の服に手をかけた。


「ふー、気持ち良い〜」


気の抜ける声で浴槽に身を沈めるゼロスは何だか子供のようだ。
でもいつもみたいに生意気なことをあまり言わない分、今のこいつの方が可愛げがあるかのしれない。
気のせいかもしれないがいつもよりなんだか色っぽくも見えるし。
口にする言葉は眠いだの湯が熱いだの文句ばかりだが。
偶にユーリ君の馬鹿だの変態だの聞こえるのは聞こえないことにしといてやろう。
いつ俺がそんなことを言われないといけない様な事をしたのか是非詳しく教えてもらいたいけどな。


酔っ払いにあんまり長湯させない方がいいかと思い自分の髪に触れようとすると違う何かに当たった。
横を見ると楽しそうに俺の髪をいじるゼロス。
どうやら俺の髪が酔っ払いおにーさんの興味を誘ったらしい。
こう言う時はほっとくのが一番と構わず洗い続ける。
髪を洗い終え顔を上げるとユーリくーん、と名前を呼ばれた。
適当に受け流すかとゼロスの方を向けば唇に温かい感触。
湯で湿っているからか何だか変な感じだ。
腕を掴まれて肌と肌が密着する。
それに慌てた俺は素早くゼロスを引き剥がした。


「何だよ?不服?」


「そういうんじゃなくてだな…。ああもう酔っ払いは大人しくしてろ」


どういっても自分が反応してしまったというのには変わりないのが恥ずかしくて適当に誤魔化す。
普段のこいつ相手にこんなあしらい方じゃ直ぐにばれるけれど今のこいつなら問題ない。
それにしてもさっきから何なんだこいつの尋常じゃない色気は。
はっきり言って誘ってるとしか思えない。


腕を引かれて浴槽へ入る様に促された。
駄々をこねられても面倒臭いのでそのまま湯に浸かる。
じわりと体を温めてくれるそれが気持ちが良い。
少し息を抜こうかと目を瞑ろうとした時、とんっと俺の胸元に何かが当たった。
恐る恐る目を開けばそこには俺の胸に体を預けてリラックス状態に入っているゼロスの姿。
どうやらこいつは意地でも俺を理性を崩そうとしているらしい。
俺だって成人済みの健全な男だ。
こんなことをされて絶対に何もしないなんて自信あるわけがないのに。


うい〜と間抜けな声を出してずるずると体を下げていくゼロス。
このままだと湯に頭まで沈めかねないと両腕で体を抱きしめる様にしてこれ以上体が下がらないようにする。
不満げな表情で睨まれたがそんなもの無視だ無視。
俺だってここまで密着してしまった以上どの弾みで理性が切れるかも分からないからな。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずかゼロスはゆっくりと俺の方を向いて恥ずかしそうに見上げてきた。
そして口元の弧をそのままに。


「ユーリ君…俺サマ恥ずかしい…」


頬を赤くして、アイスブルーの瞳はどことなく伏せがちで。
ぐらぐらと音を立てて理性が崩れていくのが分かる。
これはやばい。
最近一番のピンチかもしれない。
酔っ払いを襲うほど俺は落ちてはいないと信じたいため手は出さないつもりなのだがこれはどうしたものか。
嗚呼こんなことなら朝シャンぐらい我慢すれば良かった。


でもそこで俺は気付いた。
絡み方がいつもと何だか違う気がする。
酔っている時に、こいつが恥ずかしいなんて言うのを俺は今まで聞いたことが無い。
何をしてもへらへら笑って気がすんだらいきなり寝てしまうのがほとんどだというのに。
……まさかこいつ。


「ゼロス…」


自分の中にある仮説が正しいのか確かめるために事情中を思わせる声と手付きでゼロスの体を触っていく。
脇腹をなぞる様に撫でて首元に顔を埋める。
我慢できなかったのかゼロスから高い声が上がった。
その声に俺は思った通りだとにやりと笑う。


「お前、酔ってないだろ…?」


耳元でそう呟けばゼロスはびくりと反応してしまったという動作で俺を見てくる。
涙目のゼロスと目が合って思わずドキリとする。
今のは確実に素だ。
にもかかわらずこんなに反応してしまうなんて俺は色々と大丈夫なのか…?


「だ、だって今日は何か一人は嫌だったから…。酔ってる振りすればユーリ君一緒にいてくれるだろ…?」


その予想外な言葉に思わず目を見開く。
俺を困らせるつもりでこんなことをしたのかと思っていたのにまさかそんな理由だったなんて。
というかなんだその理由。
なんか妙に嬉しくて怒るにも怒れないだろ…!
いやいや、そうじゃなくて。ちょっと待て。という事は風呂に入る前からずっと正気だったってことだろそれ。


それが分かってしまうと一気に体から力が抜けていきそうになる。
なんだよそれ…。ここまで我慢していた俺が馬鹿みたいじゃねえか。
溜め息をついてゼロスの頭に顔を埋める。
それと同時に焦ったような申し訳ない様な声が聞こえてきた。


「わ、悪かったってば…。ごめんユーリ君…」


さっきまで人を散々騙していた奴とは思えないぐらい気弱な声。
それだけで全てを許してしまいそうになる俺はかなり重症だろう。
裸だという事を忘れそうなぐらいぎゅうぎゅうと抱きしめる。
ゼロスの制止する声が聞こえてくるがどうにもこの想いは止まりそうにない。


ゼロスが酔った振りまでして俺の傍にいる事を望んでくれたんだ。
それが分かった今、離すわけにはいかないだろ。
こんな芝居させなくて良いぐらい抱きしめて俺を感じさせて安心させたい。
これ以上無理だってぐらい体を密着させる。
その時、ゼロスが顔を真っ赤にして変態っと睨んできたのが何故なのかなんて知るわけがない。
だって俺はただこいつのことを想っているだけなのだから。


「ゼロス、好きだ…」


その言葉に自身の髪と同じぐらい顔を赤くさせるゼロスを見て俺は益々自分が抑えられなくなっていくのを感じる。
相変わらずの白い肌とそれに張り付くようにして湯に浮く赤毛。
その全てが俺を誘っている様で堪らない。
今すぐ風呂から出て気持ちをぶつけたくなる。
そんなことをすればこいつが不機嫌になる事が目に見えているので無理矢理抑え込むが。


ユーリ君、と頼りなさげに呼ばれるだけで爆発しそうだ。
なんでこいつはこう無意識に人を誘惑するのが上手いんだとやり切れない思いがぐるぐると頭の中を駆け巡っていく。
ゼロスがいきなり動いたと思ったら俺の体を跨ぐようにして乗ってきた。
どういう状況だこれ!と突っ込む間もなく唇を塞がれる。
ゼロスからキスされるのは今日これで二度目だ。
でも一度目の様な軽いものではない、大人の、キス。


「好、きっ…」


その二文字に全てを持って行かれそうになる。
今まで散々抑えてきたものが、溢れそうだ。
嗚呼だってここまで我慢したんだ。
これじゃただの生殺しだろう。


触れても良いか?と髪にキスを落としながら問えば、小さな声でゼロスは呟く。


「……触れてほしくなかったら、こんなことしない」


ああそれもそうか。
酔っ払いの振りまでして普段自分からキスなんてしてこないのに仕掛けてきて。
それなのに嫌なわけが無いんだよな。
あんなに考え込まないでさっさと触れてしまえばよかったんだ。
なんだかそう思うと今までのことが急に馬鹿馬鹿しく思えて俺は笑った。


なんだよユーリ君の馬鹿!と怒られたが、それ以上に愉快で。
不貞腐れているのか照れているのか分からない愛しいそいつに自分からキスを送った。


(愛してるよ。我慢なんて、もうしない)


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