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□Good night my brother.
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「あら、食材が切れてるわ」


その姉さんの言葉に揃って反応したのは先程から空腹を訴えていたロイドとアホ神子。
近くの村で食料を調達しようという二人の案に皆が賛同したので現在地から一番近くの小さな村に立ち寄る事になった。
ぽつぽつと安堵の声が聞こえて来たのは多分ここにいる皆が結構空腹だったという事だと思う。
だからか村へ向かう足取りは軽くあっという間に村に着いた。
運が良かったのか宿屋に結構な数の空き部屋も有り、コレットがゆっくり出来るねと嬉しそうに微笑む。


食事を済ました後、喋りながら部屋に向かおうとした僕とロイドに声を掛けてきたのは姉さん。
ふと姉さんの後ろを見るとアホ神子がしかめっ面で立っているのが見えた。
何かあったのだろうかと首を傾げると僕の上からロイドの情けない声が聞こえてくて、またそれに首を傾げる。


「どうしたの?」


「あらジーニアス、聞いていなかったの?貴方とロイド、それにゼロスに食料配達と道具の買い出しをお願いしたのよ」


なるほど、これならアホ神子のしかめっ面もロイドの情けない声にも納得できる。
疲れも溜まっているし、ご飯を食べた後ってゆっくりしたいもんね。
でも確かにロイドとアホ神子なら体力も有り余っているだろうからしょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
…その体力馬鹿の中にリーガルではなく僕が含まれたのは少し遺憾だけど。


しょうがないかとロイドと顔を見合わせて笑い姉さんからガルドを受け取る。
その様子を宿屋の入り口で見ていたアホ神子も行くしかないと諦めたのか大きく息を吐いたのが見えた。
そして、しいな達のいってらっしゃいという言葉に手を振りながら僕達はこの村唯一の雑貨屋へ向かう。


「相変わらずチビだねえジーニアス君は」


「うるさいな、余計な御世話だよっ」


「お前らいつも喧嘩してるよなあ」


僕にちょっかい出すアホ神子とそれに反論する僕、そしてその様子を楽しそうに眺めるロイド。
パーティ内でこれはもう見慣れた光景らしく今の様にまたやっているのかと笑われる事も多々あり、
僕としては恥ずかしいのだけれどやっぱり聞き流す事なんて出来ない。
だってそんなの悔しいし、ムカつくでしょ。


それを見ていたのか少し離れている所で立ち話をしていたらしい村人達がくすくすと笑ってこう言った。
三人揃って兄弟みたいだね、と。


その言葉に僕の顔は一気に赤くなっていく。
ロイドとはもちろん嬉しいけれど、何でこのアホ神子とまでそんな風に見られないとけないんだよっ!
ロイドも喜んでないで何とか言ってってば、こらアホ神子目を丸くしてないで反論したらどうなんだ、言いたい事はたくさんあるのに何一つ音にならない。
嗚呼もう冗談じゃないよ。僕はこいつみたいに馬鹿じゃないし子供っぽくない。
兄弟なんて似ても似つかないじゃないか!


居た堪れなくてロイドの腕を引いて歩き出す。
慌ててロイドもアホ神子の腕を掴んだため、傍から見ればかなり格好悪い。
それこそ小さな子供達が乗り物ごっこでもしているかのような光景。
幸い、雑貨屋はいた所から近くにあったため人に見られる事はなかった。


「もう、アホ神子ってばいつまで固まってるのさ!」


僕のその言葉に我を取り戻したのかへ、と間抜けな声を上げるアホ神子。
嗚呼、やっぱり全然似てないよ。
小さく溜め息をついて姉さんから預かっていた買い物リストを見ながら食材をかごに入れていく。
それにしても何でさっきからロイドはこんなに楽しそうなんだろう。


僕は楽しい事なんて何もないのに。
そう言って、さっきから必死に怒っている自分に気付きながらあえて気付いていないふりをした。
どうしてか分からないけれどこうでもしとかないと変なこと思いそうなんだよ。


アホ神子が嫌に静かな分、買い出しはスムーズに進みそれほど時間を掛けずに終わる事が出来た。
宿に帰ろうとする僕とアホ神子を何故かロイドが引き止めて、何よハニー、といつもの調子でアホ神子が言うと楽しそうに笑う。
急かされるがまま後をついていくといつの間に見つけたのか土手のような場所を辿り着く。


綺麗な花がいくつも咲いていて思わず綺麗、と呟いた。
その言葉にああ、返事をした声が一つ。
ロイドじゃない、という事は残りはあと一人、アホ神子だ。


そっと横に立つアホ神子を見ると自身のアイスブルーの瞳にきらきらと流れる小川と色とりどりの花を映して小さく微笑んでいる。
いつものこいつとは全然違って、何というか、その景色に負けないくらい綺麗なんだ。
そんな事を考えてしまたった自分が恥ずかしくて下を向くと、温かい手が僕の頭を撫でた。


「下に降りてさ、ちょっと休憩しねーか?」


僕とアホ神子は同時に頷く。
そりゃ、宿に帰ればここよりもずっとゆっくり出来るかもしれないけれど、今はこの美しさに触れたいと思ったんだ。
きっと二人も同じ気持ちなんだと思う。


ごろんと勢いよく大の字に寝転がり目を見開く。
日はもうとっくに暮れていて小さな光が空にいくつも浮かんでいるのが神秘的。
こんな風に夜空を見るなんて、いつぶりだろう。


たくさんの荷物を少し離れた所に無造作に放っているのが姉さんにばれたらきっと怒られるだろう。
でも何だかそれが愉快で堪らない。
不意にアホ神子の手に自分の手が重なる、いや、当たったというべきかもしれない。
ごめんと謝り離れようとしたら、何故かぎゅっと握られた。
まさかそんな事をしてくるとは思わなくて顔を見るとしてやったりと言った感じの笑顔。


何だか怒るのが馬鹿らしくて、僕は空いている方の手でロイドの手を握った。
優しく力強く握り返されるのが嬉しくて堪らない。
嗚呼やっぱり僕はロイドが大好きなんだって実感できるんだ。


さらさらと気持ちの良い風が僕の頬を撫でる。
その気持ちよさに身を任せるかのように僕は目を閉じ、そっと呟いた。


「僕、ロイドとゼロスが兄弟って言われて…嬉しかったよ」


自分達よりもまだまだ小さな愛おしい仲間を背中に抱えて宿へ向かう。
とても満ち足りた気持ちなのは、この少年が眠りに着く前に囁いた言葉が嬉しすぎたから。
そんな風に言ってもらえるなんて思わなかったと、嬉しそうに赤毛が揺れる。


おんぶをする様子が本当の兄弟みたいだと微笑み、夜空に良く映える白をふわりと撫でた。
子供特有の柔らかさが心地良く気持ちが良い。
俺サマは撫でてくれないの、なんて言う子供の様な言葉に俺は笑い赤にも手を伸ばす。
絹の様にさらさらと落ちていくのに目を奪われる。


どちらも愛おしくて堪らなくて、俺は二人を同時に抱き締めた。


(兄弟愛、じゃ足りないんだ)


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