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□甘い声でサヨナラ告げた
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※暗め。


お前の瞳って綺麗だよな、と何の前触れもなく触れてきたロイドにどう反応していいか分からず生返事を返した。
好きだの愛してるだの言われたことは鬱陶しい程あるけれど今のように純粋にまじまじと見られた事は一度もない。
嗚呼それが当たり前。だって周囲が好きなのは俺の地位、愛してるのは俺の権利なのだから。


(こんな事悟らずにぬくぬくと生き続けられれば幸せだったのかもしれない)


そうやって真実を知った時、正気を保てる自信は毛頭無いのだからどっちにせよ俺にはこの道しか残されていないのだけれど。
なあロイドお前のその言葉も俺の地位や権利を目的として発せられたものなのか。
それとも、愛だなんて吐きそうな程甘いものから紡がれたものなのか。


そうやってガラス細工を扱うように触れるのも俺の瞳を見つめて再度、綺麗だと呟くのも全部紛い物なのだというのならお前は相当な策士だろう。
罠だと分かっている筈なのに自ら飛び込みそうになる程にその言葉は甘く、蜂蜜に群がる蜂のように俺は引き寄せられてしまう。


最後には絶望があるのかもしれないけれどほんの少し生き物の温かさに触れられるのならそれもいいかも知れない。
こんな事を考える俺でもお前は受け入れてくれるだろうか、あわよくば愛してくれるとでも言うのだろうか。
分からない。でもお前ならもしかしてを期待してしまう自分の何と弱いこと。


(お前は優しいから、縋りたくなる)


自らの弱さを目の前の男に擦り付けるように鷹に手を伸ばせば先ほどと同じように躊躇なく俺に触れてきた。
しかもそれだけでは終わらず女に抱擁するかの様に優しくふわりと俺を腕の中に納めてきたのだ。
こんな事をするなんて血迷ったのだろうかと考えながらぼんやり天井の光を見る。
嗚呼何と眩しいのだろう。いや光なのだからそれが正しい姿。
皆を照らして闇を消さなければならないのだ。
そこまで考えて合点が行く。そうか、そうだったのか。


「お前は俺の、ランプなんだな」


「何言ってんだ?俺は人間だぞ」


そういう話をしてるんじゃないと馬鹿にすればそういう話だろうと間髪入れずに返される。
そういえばこいつは比喩的表現が伝わらない人間だった、こんな遠回しな言い方が通じる筈がないのか。
嗚呼そんな事すら脳の片隅においやるくらい真剣に愛なんて別世界のものを追い求めている自分が滑稽すぎて笑えてくる。
そんなものとはとっくの昔に離別したというのにまだ未練があるとでも言うのだろうか馬鹿らしい。


自分よりもまだ少し幼さを残す体に腕を回し確かな体温を感じ取る、嗚呼、こいつも俺も生きているのだ。
それでいいそれだけで十分に奇跡。
愛なんてものを手に入れられなくても死守すべき己の光はここにあるのだからこの灯だけを守ればいい。
こいつが綺麗だと触れた自身をこれ以上闇に落とさない様に足を踏ん張って生きていく、俺がこいつにしてやれるのはそれだけだから。
俺の考えは歪んでいるのだろうか、おかしいのだろうか。


(でもこいつだけは失いたくないと思う事は狂ってなんていないだろう?)


誰に問うでもなく消化不良のまま心に落ちてゆく言葉を惜しむかのようにしっかりとした肩に顔を沈めた。
俺よりもずっとたくさんのものを背負う体は歳に似合わず逞しく全てを包み込んでいくかのよう。
こいつと俺では生きている意味が違うのだと痛感させられ小さな心臓がちくりと痛む。
愛されることも愛すことも十分に知らない俺がこいつの隣に立とうとしたのがそもそもの間違い。
しかも愛されたいだなんて浅はかなことを望んでいたなんて身の程知らずも甚だしいことだったのだ。


力を入れて肩を押せば簡単に体は離れて互いがベッドの上へと投げ出される。
どうかしたのかと呆然とする声が嫌でも耳に届き無性に塞ぎたくなったのは罪悪感の所為だろう。
皆の光であるロイドを闇の様な俺が心を傾けてしまうなどあってはならなかったのに今までそれに気付けなかった。
大事な誰かを傷付けるのはもうたくさんだと何度も涙した筈なのにまた同じ過ちを繰り返す所だったのだ。
とくんとくんと心臓の活動が早くなる。恐怖、とでもいうのか。


そんな心を読み取るかのようにまた器用な手が俺の体を引き寄せようとするのに気付き必死に腕を突っぱねて近付けないようにする。
これ以上居心地の良さを知ってしまったなら弱い俺はもう離れる事は出来なくなると分かっていたから。
無理なんだもうこいつに踏み込みこんではいけない。本当に愛を望んでしまう、そんなの、あってはならない。


「ロイド…もういいからっ、離せって…、駄目…っ」


なんて頼りのない惨めな声だと泣きたくなるのを必死に涙腺で受け止め手を震わす。
無理強いなんて絶対にしない筈のこいつがどうして今に限ってこんなにも往生際が悪いのかそんな事考えるまでもない。
それほどまでに自分の中にあるこの崩れそうな脆い心を隠し切れていないだけのこと。格好悪い。
そんな俺が加減をしらない今のロイドに勝てる訳もなく腕と腰を引き寄せられていく。


無性に恥ずかしくて顔を伏せたのに覗きこむようにして俺を見る男に嫌がらせかと悪態をつきたくなる。
離してくれればもうお前には近付かないと決めたのにどうしてそんな未練を残したくなることをするのだろう。
どうやらこいつは俺が思っている以上に捻くれているらしく必要に目を合わそうとしてくる。
嫌だと言うほど見つめられるのに耐えきれなくなり俺はついに一粒涙を零した。
何て痴態なのだろうと必死に手で拭おうとしてもぽろぽろと隙間から零れていきロイドの頬を伝う。


軽蔑されたかもしれない、そう思うと止まるものも止まらなくなりシーツには透明の染みが出来ていく。
ロイドの馬鹿野郎と責めるも謝罪の言葉は無く顔を覆っていた両手を掴まれゆっくりとどけられる。
そうすることで露わになったのは情けない俺の泣き顔。
それを見たロイドが発した一言は数分前にも聞いたのと同じ言葉。


「綺麗、だな」


グローブを外した手で俺の頬に手をやり何度か撫でるとおもむろに瞳に手を近付け涙を掬い、ごめんなと苦笑した。
そんな事をされたら怒るものも怒れなくなるだろう、本当にずるい、最低だ、お前なんか、


「好きだ、ゼロス」


心でも読んだかのように伝えられたその言葉に耳を疑う、有り得ない、だろ。
そうだ有り得ない少なくてもこいつからそんな事言う筈ないだろ、これは何かの間違い。
間違いでこんな事を言う筈ないと頭では分かっていても心がついていかなくて有り得ないのだと繰り返す。
でも実際ロイドは言ったのだ、好きだ、と。


思わず返事をしてしまいそうになる口を震える手で咄嗟に抑えてロイドと目を合わさない様に下を向く。
嗚呼訳が分からない状況についていけないだって好きだなんて有り得ない、そうだろう。
意識しようとしなくても心が喜びに包まれていくのが感じ取れる、当たり前だ、俺はずっとあいつを愛していたのだから。
でもそんな喜びの中に一点潜んでいるのは、悲しみ。


こいつがこう言ってくれたのは思いがけない幸福だけれど俺達の場合それが決してハッピーエンドに繋がるとは限らない。
俺といることになればきっとこいつが傷つく時も出てくるだろう、そんなの嫌だ。
皆の光である筈のこいつが俺の所為で闇に染まるのはきっと耐えられない。
光が闇に変わる事は容易いけれど、一度闇を知った者が光に戻るのはそう簡単な事じゃない。
そんな穢れた世界をわざわざこいつが知る必要なんてない。


何も悟られない様に口から手を離しごめん、と呟いた。


(愛していると伝えれたなら、どれほど幸せだっただろう)


(でも結局、僕に君は眩しすぎたんだ)












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