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□ひかるいのちのいのりごと
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「四つ葉のクローバー探しをしましょう」


何の前触れも無くそう言ってきたのはいつもユーリと一緒にいる少女、エステル。
そこまで面識があった訳でもないのに突然そんな事を言いだした彼女に俺はただただ呆然とする。
クローバー探し、だなんて本気で言っているのだろうか。
時間が掛かるし見つけたからと言っても何にもならないのにどうして態々そんな事をしようとするのか俺には分からない。


そういえば、ユーリからかなりの天然だと聞かされているがこういう所を言っているのかもしれない。
でも迷惑だと思わないのは彼女の人柄の良さと言うべきか。
ただ何となくエステルとならそういうのも悪くないと思えてああ、と返事をした。
俺の返事を聞いてふわりと肩までの髪が揺れる姿はとても可愛らしい。


手を引かれるまま外に出て、どこに行くのかも分からないままただ目の前で揺れる桃色を見つめる。
外を歩いているだけなのにどうしてこんなにも穏やかな気持ちになるんだろう。
不思議だけど、とても心地良い。


この地域に生えていた事があると本に書いてあったんです、と言ってキョロキョロとクローバーを探し始めるエステル。
その表情は真剣そのもので少しだけおかしくて、とても愛おしい。
冗談かと思っていたけれどそんな彼女を見せられると無性にクローバーを見つけたくなってその場に座り込む。
きっと見つければあの瞳は宝石の様にキラキラとするのだろうと思うと探すのが楽しくてしょうがない。


探し始めてからどれくらい経ったかという時に不意にエステルの声が響いた。


「ルークはとても優しいですね」


それがどういう意味なのか分からず首を傾げれば軽く微笑み言葉を続ける。


「誰かの為に一生懸命になれるのは、優しい人だからです」


その言葉はきっと正しいのだろうけれど自分はその優しい人の定義には当て嵌まらないと思った。
俺が今一生懸命になっているのは、その相手がエステルだから。
もし見ず知らずの人にクローバーを探そうだなんて言われてもきっとここまで必死にはならないだろう。
彼女の喜ぶ顔が見たい、それだけ。
優しさでも何でもなくてただの自己満足の為の行為に過ぎない。


俺は優しくなんてないよと苦笑し目線をクローバーへと戻すけれど、三つ葉ばかりで四つ葉は見つかりそうにない。
最初から見つかるはず無いと思っていた筈なのに、いざ見つからないとそれが何故かもの悲しいのは何故だろう。
嗚呼、お願いだ。
彼女に見せてやりたい笑って欲しい、だから、どうか。


自分達の本拠地から煙が上がっているのが見えた。
それは集合の合図、任務か何かは分からないけれど何かしらの用事で人手を必要としているのだろう。
つまりこのクローバー探しの終わりを意味している事になる。
心が沈んでいくのが手に取るように分かった。


残念ですけど、戻りましょうか、そう言って服に付いた葉をぽんぽんと払いドレスのような服をふわりをさせて俺の方を向いた。
自分で口にしたようにどこかその笑顔は残念そうで、一層心がクローバーを求める。
まだ、諦められない。まだ、まだだ。


小さく一歩を踏み出せばエステルがあっ、と声を上げて俺の足元に座り込む。
俺も同じように屈めば瞳に映る四つ葉のクローバー。


望んでいたクローバーを瞳に映す彼女は思っていた通り、いや、それ以上にキラキラとしていて綺麗。
淡い緑がクローバーを目に映すと次第に深い緑に変化していく。
心の中で誰にという訳でもなく、何度もありがとうと呟いた。


彼女の嬉しそうな表情を見ているとこっちまで嬉しくて笑顔になるんだ。
不意に視線を俺に移しにっこりと笑うエステルにどきりとする。


「とっても可愛いです。見れて良かったです」


「…?持って帰らないのか?」


てっきり持ち帰るために探していたのだと思っていた俺にとっては彼女の言葉は意外だった。
折角見つけたクローバーなのに持って帰らないのだろうか。
不思議そうにする俺を尻目にエステルは優しい微笑みを浮かべる。


「四つ葉のクローバーは幸運を呼ぶと本に書かれていました。だから、皆にも見つけて幸運になって欲しいんです」


気休めぐらいにしかならないかもしれないですけど、そう願わずにはいられないんです。
そう言ってにこりと笑い、さっきと同じように上品な動作でそっと立ち滲むような夕焼けに目を細めた。
嗚呼どうしてこんなにも優しくて温かいんだろう。


出来るなら彼女を幸せにするのが自分ならどれほど幸せな事だろう、だなんて。


「じゃあさ、早く帰って皆にクローバーの事教えてやろうぜ?」


「はいっ」


(嗚呼どうかこれが、幸運の始まりであることを!)










thanks! 人魚


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