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□フラワーシンドローム
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「綺麗、だ」


目の前に広がるのは見た事が無い様な色取り取りの花が咲き誇る花畑。
青いもの、赤いもの、黄色いもの、生憎と俺サマは花に詳しくないけれどその美しさが他と群を抜いているのは分かるよ。
その花々の美しさに主語すらも忘れて俺サマがそう呟けば、ロイド君がにっこりと笑った。



「ゼロスの瞳、きらきらしてる」


きらきら、なんて表現を俺サマに使うのは可笑しいよロイド君。
どんなハニーでもイチコロにしてしまう美しさが他と比べ物にならないくらい際立っているのは分かるけれど、きらきら、はやっぱり変。
もっといくらでも格好良い言葉はあるだろう?


そう、例えばこんな美しい花畑に立つゼロスはお姫様を迎えに来た王子様みたいだな、とか、うっとりと花を眺めるゼロスは憂いがあって儚げだ、とかさ。
まあ俺サマってばどんなシチュエーションでもこなしちゃうから言葉の選択に迷うのはしょうがないけどな。
嗚呼でもその前に語彙力の乏しいロイド君にはこんな言葉思いつかないのかもしれない。
だから咄嗟に出た言葉がきらきら?そいつはとんだ勉強不足だねロイド君!


一歩足を踏み出せば、花の香りが自分の体を包み込んでいくようで心地が良い。
優しい風。体が軽くなりそうだ。ふわりふわりと俺サマの髪が靡いてコスモスの花弁と一緒に空へと舞い上がっていく。
赤いレースが空に舞うように見えるそれは我ながら中々に美しいものではないかと自賛する。


ねえロイド君、お前はそう思わない?
その問いを瞳に含むようにして視線を俺サマに負けず劣らずの赤いあいつを視線に入れれば、真っ先に目が行くのはその瞳。
鷹色の筈なのにどこか澄み切った空を思わせるほどに透き通っていて思わず見惚れてしまいそうになる。
スカイブルーの瞳と言おうか、嗚呼、ロイド君の方こそよっぽどきらきらしてるよ。


俺サマの視線に気付いたのか不思議そうにこっちを向いたお前の瞳に空でも花でも無くて俺サマが映っているのが嬉しい。
そして、力強すぎるその視線は少しだけこしょばくて恥ずかしく感じてしまう。
言うなれば惚れた弱み、とでも言っておこうか。


「綺麗だな、ゼロス」


「…う、うん?」


綺麗、綺麗だなゼロスって、止めろよロイド君、俺サマ今幸せで有頂天だから変な誤解しそうになるだろ?
それじゃあまるで俺サマが綺麗みたいな言い方じゃねーの。
嗚呼何だよその自意識!そんなの凄いナルシストな奴みたいで、絶対御免だ。


それに、俺サマからすればロイド君の方がよっぽど綺麗なんだぜ?
どれだけ汚い現実を見ても穢れないでその瞳のきらきらを失わずに純粋な笑顔で笑っていられる。
ほら俺サマには出来ない事ばかり。
綺麗なのは、ロイド君だ。


以前の問題としてきっとさっきの台詞は美しく精一杯に咲き誇る花々に対して向けられたものだからこんな事考えている時点で可笑しいんだ。
ロイド君は基本的に思った事を口にするタイプなのだから素直に綺麗の気持ちを言葉に表しただけ。うん、それだけ。


「ゼロス、お前が、だよ」


……本当にお前は何でそういう事言うのかな!
人が折角自己完結しようとしていたのに、何で最後の最後に余計な事言うのかな、花が、で良いだろ、何の問題も無いだろう!
嗚呼ほら顔が赤くなってきた、俺サマロイド君の言葉に良い意味でも悪い意味でも左右され易いんだよ。
だからそんな風に言われると嗚呼ちゃんと手入れしてて良かったなんてどこかの乙女みたいな事思っちゃうだろ!
どうしよう、心臓は冷静になってくれない。


「…ロイド君の馬鹿」


唇を尖らせて言ったせめてもの意地はどうやら口走った本人には届かなかったらしく風と共にどこかに流れていってしまった。
本当こいつと一緒にいると自分のペースを保てなくなる。
それが嫌じゃないのはきっともう末期なんだ、名付けるならロイド病の。


そうだ、と一段と大きな声を上げてロイド君はその場に座り込んで何やらキョロキョロし始めた、その姿は本当に子供の様で何だか少し微笑ましい。
何をするのか分からなくて邪魔にならない程度の場所に腰を下ろして大きな子供の動作を目で追いかける。
たくさんの花を手に取っては繋げていく、その動作があまりにも手際よくて流れるようなので、これこそ魔法の様だと思う。
嗚呼ロイド君が本当に魔法使いならこの世界は幸せに満ちた世界になるかもしれないのになあ、なんて夢を見る。
世界の問題を一つずつ消化していかない限り全てに平和なんて訪れないけれどその可能性を捨てられないんだ。


だってこの世界には、ロイド君や大切な奴がいるのだから。
俺を救ってくれた皆が笑顔でいられる世界にしたいと願うのはあまりにも単純すぎるかもしれないけれど、思わずにはいられないのだ。
諦め癖が悪くなったのはきっとロイド君の考えが俺サマにも浸透したのだと思う。


ロイド君、お前のその美しいものを作り出す手を守りたいよ。皆の為に駆けずり回る足を守りたいよ。他人の為に惜しげも無く危険にさらす体を守ってやりたいよ。
お前が誰かの為に戦うと言うのなら、ロイド君の全部を俺サマが守ってやりたいんだ。
その瞳も声も笑顔もこの先の未来も俺サマにとっても必要不可欠なものだから。


どれくらいの時間が経ったか、日頃の疲れも有ってかうたた寝モードに入っていた俺サマの耳に届いたのは楽しそうな出来た!という声。
嗚呼そういえば何か作っていたなと意識を覚醒させようとしていると頭の上にポンと何かが乗せられた。


「良く似合ってるぜ、ゼロス」


嬉しそうに笑うロイド君を見て嗚呼そりゃ良かったと思いつつも自分の頭に何が乗っているのかが気になりそっと頭から取る。
円形の形をして多くの種類の大小様々な花達が付いているそれは確か花輪、というものだったか。
ロイド君の器用さが良く現れておりきちんとした円にバランスよく美しい花々が囲んでいて、思わずここに来て何度目かの綺麗を呟いた。


普通は女の様な扱いを怒るべきなのかもしれないし、こんなの何とも思わないと虚勢を張るべきなのかもしれない。
でも、俺サマはもうロイド君の前で自分を偽る事はしたくないしそもそも偽ってもすぐに見抜かれてしまうからするだけ無駄なのだ。
なら素直に喜ぶ方がずっと良いってものだろう?


「有り難うな、ロイド君!」


頭に花輪を乗せてぎゅうっと抱きつけば当たり前の様に抱きしめ返してくれる事が嬉しくて、顔を見合わせ笑うんだ。
嗚呼今の俺サマ、不本意だけどきらきらしてるかもしれない!


(だってこんなにも、心が満ちてる!)





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