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溺愛注意報



(フレンとゼロス)






白を基調とした立派な鎧。
これを着ている限り、僕は何事もきっちりとこなして常に周りに気を配らないといけない。
それはとても大変な事で責任が重いけれど自分に与えられた使命ならと割り切っていた。
でも体の方はその忙しい日々に耐えきれなかったらしい。
ソファに腰掛けた途端に猛烈な眠気が僕を襲い、目蓋はそれに逆らうことなく閉じていった。


それからどれ程の時間が経っただろうか。
ぼんやりと目を開ければ不意に感じる肩の温かさ。
その正体を確かめるように隣を見れば、自分の肩に体を預ける様にして鮮やかで美しい赤毛を持った男がすやすやと眠っているのが目に入った。
いつもの軽薄さや皮肉さを微塵も感じさせない子供の様に無防備な寝顔に思わず微笑んでしまう。


(普段もこれくらい素直でもいいのにな)


起きない様にそっと頭を撫でながらそんな事を考える。
確かにいつもの猫の様に飄々とした彼も魅力的だけど、こんな風に素直な彼も素敵だと思うのだ。
彼と自分の幼馴染は良く似てるから余計に放っておけないというのもあるけれど。


そこで随分と部屋が暗い事に気が付いた。
まさかと思い壁に掛けてある時計を見れば眠ってしまってから2時間以上も経過している。
嗚呼やってしまった。皆に迷惑を掛けているに違いない。


現実が波の様に押し寄せてきてどんどん焦りも出てきた。
早く彼を起こして仕事をしないと、そう思っている筈なのに中々起こす事が出来ない。
とても気持ち良さそうに眠っているので、どうしても起こしにくいのだ。
それに本音を言ってしまえばもう少しだけこのままでいたいと思っているのも事実な訳で。


伸ばそうか伸ばすまいか、ふらふらと手が自分と彼との間を行き来する。


「…う…ん…」


小さく聞こえる寝言と同時に漏れる吐息に思わずドキリとしてしまう。
常々思うのだけれど、君は男性だというのにどうしてここまで色っぽいと感じる事があるんだろうね。
変に意識してしまう僕の身にもなって欲しいよ。


聞こえない様に小さく息を吐けば、またもぞもぞと唇が動き始めた。
こういうのは聞かない様にするべきだと思いながらもつい耳を傾けてしまう。
頭に仕事の二文字が浮かんだが今だけだから、とかき消す。
ごめんね皆、不甲斐ない隊長で。


「フレ…ン…」


その言葉に心臓の活動が早まっていく。
だって、寝言で僕の名前を呼んでくれるなんてそんなの嬉しすぎるだろう?
嗚呼今すぐ抱き締めたい、思い切り抱き締めて、彼の名前を呼びたい。
そんな衝動に駆れるけれど眠っている彼にそんな事をすれば折角の安眠を妨害する事になってしまうので我慢だ。


せめてこれだけでも、とたっぷりとした赤毛にキスを送る。
すると、閉じていた瞳がゆっくりと開いてアイスブルーの瞳が僕を見た。
そしてフレン、と寝起き特有のぼんやりした声音で僕の名を紡ぐ。


それがとても可愛らしくて、我慢できずに僕はその体を強く抱きしめた。
驚いたように僕の腕の中で身じろいだがすぐに大人しくなりおずおずと背中に腕を回してくるのがどうしようもなく愛おしい。
眠っている彼もいいけれどやっぱり起きている彼が良いなと思いながらその温かさを感じる。


「ゼロス、大好きだよ」


「な、何だよいきなり…。変なフレン君…」


動揺しているのかしどろもどろな彼に軽く微笑んで、明日から仕事は頑張ろうと思い目を瞑った。
聞こえるのは愛しい彼の声と、僕の心臓の音だけ。


(今は君だけを、感じていたい)





鼓動は恋のメトロノーム



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