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□甘い毒針
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優しい声。
俺が今まで聞いた事のない位に温かくて優しい声を出したのは俺よりも年下の少年だった。
甘く、溶ける様に俺の名前を呼ぶのだ、嗚呼そんな事をされたらどうすれば良いのか分からない。

今までこんな風に穏やかに誰かといた事があっただろうか。
いつ後ろから刺されてもおかしくない生き方をしてきた自分にとって、これは初めてのこと。

もちろん今だって状況は変わらない。けれど、俺に危機が迫ろうものなら必ずこの少年は現れて太陽よりも眩しい笑顔で微笑むのだ。

これからもずっとそうあって欲しいとは言わない。それはただの俺の我が儘だから、この光の様な少年に言う必要は無いのだ。
だけど、このまま一緒にいれば、思わず言ってしまうかもしれない。
こいつのお荷物になるのは絶対に御免だ、だからどうしたってそれは避けないといけないこと。

(今こうしていられるだけで十分だろ)

「ずっと一緒にいるからな」

そう、決意したのに嗚呼どうしてそんな事を言うんだよ。
お前をこれ以上求めない事を誓った俺に、どうして今そんな事言ってくるんだよ。
全く恐ろしい奴だ、そいつが一番言って欲しい言葉を簡単に良い当ててこいつから離れられなくするんだ。

一度引っ掛かれば決して逃げる事の出来ない蜘蛛の糸。愚かな俺は見事に捕えられてしまった。
それでも俺は、今までどんな状況でも諦める事だけはしてこなかった。
なのに今逃げ出せないのはきっと心の奥底でずっとこいつと一緒にいたいと思っているからだろう。

嗚呼、その言葉が俺を逃がしてくれない。
いつか俺の所為でお前が傷付いてしまうかもしれない、そんなの嫌なのに、見たくないのに。

何で俺なんだよ、そう呟けば、少年は普段と何一つ変わらない笑顔で答えるのだ。

「好きだから、傍にいて守りたいんだよ」

(ほら、その言葉一つで俺は呼吸さえ上手く出来ない!)



thanks! h a z y


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