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□ネバーランドにさよならを告ぐ
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ここのメンバーは比較的若い奴が多い。
すずやジーニアスぐらいの歳の奴が自分の横で戦っているのを見ると正直複雑なところだったりする。(だって普通は守られる立場だろう?)
自分といつも一緒にいるあの頑張り屋の先生もそう考えれば随分と幼い方なのだ。
あまりにも幼い、非戦闘員であるのが普通の子供達。
もちろんそれは15、16歳ぐらいの奴らにも当てはまる事なのだが、どうにもそこら辺の年代が一番戦いに置いて積極的だったりするものだから感覚が鈍ってしまう。
皆、戦う事に迷いが無いのだ。
そりゃもちろん戦いが好きというわけではないが、個々が自分の意思で此処にいて武器を構え、敵に向かっていく様子は俺よりもずっと堂々としている。
それが良い事なのかどうかは分からないけれど随分とこいつらは早足で大人になっていく(いや、ならされている)気がするのだ。
俺だって立ち止まれないのは分かっているさ、でも、もっと怖がって迷って悩んでも良いだろう。
(ほんの少し、休む時間すら許されないのか)
どん、と後ろから背中に感じる小さな痛みと誰かの声。誰かが俺にぶつかったらしい。余所見でもしていたのだろうか。
「ご、ごめん、大丈夫?えっと…顔見えない…っ」
俺にぶつかってきたそいつは辞書並みに大きくかさ張る本を何冊も持っており前も見えていない状況の上、今にもこけてしまいそうなほどふらついている。
ヨタヨタと危なっかしい足元に軽く笑って本の山からそいつが真っ直ぐ立っていられるぐらいの冊数を取ればひょっこりと顔を出した声の主。
子供らしい大きな瞳に、真っ白で綺麗な髪。着ている服が水色の為か俺の彼に対する初印象は、雪ん子、だった気がする。
ユーリだったんだ、ごめんね。と首を傾げて謝罪してくる姿は可愛らしいが、その可愛さに騙されてはいけないのだ。
魔術においてはこの歳にしてメンバーの中であの陰険眼鏡に引きを取らないというか能力的に勝っているらしいのだから。ある意味将来が恐ろしい。
「何してるんだジーニアス。こんな何冊も抱え込んで」
「あ、うん。今僕の部屋でルカと勉強してるんだ。それでちょっと資料をね」
任務だけでも疲れが溜まるというのに自分から率先して勉強しているだなんて恐れ入るよ全く。俺も少しは見習うべきかね。(勉強はごめんだけど)
偉いな、と片手で本を持ち直し空いている手でジーニアスの頭を撫でて、確かこいつの部屋はこっちだよなと歩き出す。
その行動に驚いた様に後ろからジーニアスがひよこの様に付いてくるのが可愛いだなんて思ってる事が本人に知られたらどうなる事やら。(どうやら子供扱いが嫌いらしい)
「ユーリ、いいよ、重いでしょっ?」
「はは、前衛の力なめるなよ」
そう言って階段を下りていく俺に何を言っても無駄だと分かったのか有り難う、と礼を言ってきた。姉の影響からかこういう部分はやけにきちんとしている。まあ良い事だけど。
ええっと、階段を下りてここを右に曲がって…、「そこ左だよ」、あ、違った。
何回か指摘されながらも(何せ大所帯の為、部屋数がやけに多いのだ)どうにか目的の部屋へと辿りつきドアを開ければ、視界に入る白。ルカだ。
俺を視界に捉えるや否やあれ、と不思議そうな声を上げた。そりゃ、ジーニアスが開けるだろうと思っていたのに開けたのが俺だったら驚くわな。
「ユーリが手伝ってくれたんだ」
そのジーニアスの一言で状況を把握したのか、慌てて駆け寄ってきた。
「ごめん、ジーニアスとユーリさん。重かったよね。やっぱり僕が行けば良かった」
「ううん。ルカは問題解いてる途中だったんだから良いんだよ」
二人でそう言い合って本を机と運ぶ姿は中々に微笑ましい。戦いに身を置く彼等だけれど、きっとこれがあるべき子供の姿なのだ。
こんなにも勉学に励み優しく楽しげに笑う普通の子供である二人が、ほぼ毎日その手で何かの命を奪っている。冷静に考えればそれがとても残酷な事に感じる。
覚悟はきっとあるのだろう。
未練がましいのはきっと俺だけだ。まだ心のどこかで手を血で汚すのは自分だけであって欲しいと願っている。(嗚呼全く、どっちが子供なんだか)
薄く自嘲気味に笑って下を向くとくりくりと大きな瞳が二つ、首を傾げて俺を見ていた。思わずぎくりとする。
「な、何だよ二人揃って…」
背中に何故か汗を掻きそうになりながら苦笑いを浮かべれば、ジーニアスが少し落ち込んだような表情で口を開く。
「ユーリはいつも、一人で考えるよね。僕達をいれてくれない」
首を傾げるのは今度は俺の番だった。その言葉の意味がイマイチ良く分からずどういう意味だと聞き返せば今度はルカが言葉を発する。
「ユーリさんって、悩みがあっても誰にも相談せずに一人で解決するじゃないですか。僕達、何だかそれが寂しいんです」
確かに貴方は僕達よりもずっと大人かもしれない、けれど、だからと言って一人で何もかも解決しようとしなくてもいいでしょう。僕達だって力になりたい。
だって僕達は仲間であって家族でもあるのだから。
無邪気で無垢で親身なその言葉に何も言えなくなる。家族、ああそうか。そうなのか。こいつ等は俺の事そんな風に思っているのか。
何も飾りなく、ただ嬉しいと思う。
今俺が抱えているのは悩みとは少し違う様に思えるが、当の本人であるこいつ等に疑問を打ち明ければ少しでも何かが変わるかもしれない。
もしかしたらそんな風に思っているのかと怒られるかもしれない。けれど俺はやっぱり気になるんだ。
どうしてここまで頑張れる?戦う事をどうして続けられる?
そう思いきって問えば、目を丸くして二人は考え込み、顔を見合わせた。やっぱり可笑しな質問だったか。そう思ったけれど、二人は笑顔で言葉を紡ぐ。
「確かに戦う事が全く怖くない訳じゃないよ。でもね、ここには皆がいる。嬉しいのも悲しいのも迷うのも、皆がいればいつだって出来るんだ。だから、今は戦うんだよ」
感情を受け止めてくれる人がいる限り、大丈夫なんだ。一人じゃないからこうして笑っていられるんだよ。だから、皆にとってもここがそういう所であって欲しいから戦うんだ。
いつか戦いが終わって、皆で今までの分、怖かったね、苦しかったね、でも、すごく嬉しいね、って笑いたいんだ。
そう言って微笑む彼等。未来の為に今を守る。子供らしさと、背伸びをした大人の考えを持つ二人の少年は俺よりもずっと大人に見える。
迷うのも怖がるのもまた後で、なのか。嗚呼それはとても難しい事だと思う。でも実際彼等はそれをやってのけているのだから、俺が考え込む理由なんてないのかもしれない。
もし本当にどうしようもなくなってこいつ等が自ら立ち止まってしまった時に支えてやれるように後ろで見守る事が本当に必要な事なのか。
それまではこのまま頼りになる仲間として戦場で戦えばいい。それで良いのかもしれない。単純だ。でも、それが一番大切なんだろう。
「……ありがとな。何となく分かった気がするよ」
「うん。どういたしまして」
勉強頑張れよ、と二人の頭を撫でて俺は部屋を出た。驚くほどにその足取りが軽く感じる。
あいつ等が未来を守りたいというのなら、俺があいつ等の今を守ってやれば良い。そして未来笑い合える世界を一緒に築いていくんだ。
(嗚呼、それは中々良いんじゃねーの?)
くすりと笑い、先の未来に大きすぎる期待を持ちながら俺は一歩階段を上った。
thanks! h a z y
以下ルカとジーニアスの想い。
締められたドア。僕達はぼんやりと眺めて口を開いた。
「子供も大人も関係無いんだよ。迷うのも悲しむのも、年齢なんて関係ないんだ」
「だからユーリさんだって、一人で頑張らなくて良いんだよ」
僕達は未来の為に戦うよ。でも、その大切な未来には貴方にも居て欲しいのだからお願いだから無茶はしないで。
(貴方が居なくなってしまったら、なんて未来、いらないよ)