MAIN

□スキの反対はキス!
1ページ/1ページ



冬には付き物の何とも言えない外の冷たさにも慣れてきたと思ったら、もう年末、というよりも大晦日になっている。
時間が経つのは個々によって早さが違うく感じるだろうが俺さまにしてみればあったという間の一年だった。
この歳(いや、まだ二十代だけど)になると毎年毎年そう変化があるわけでも無く同じように年を越して同じように年が明けていく。


別に明けても暮れても何にも変わらないし。
いつもこう思いながら賑わう大晦日の夜も適当に女の子と喋って適当なところで解散して適当に家に帰って、除夜の鐘を聴くでも年越しの特番を見るでもなく寝る。
ぱちりと目を覚ませばお昼前。それが、俺さまの元旦のお決まりコース。
去年の今頃は今年も同じなんだろうなあと思っていた気がする。まあこいつがいなければ多分そうなっていただろう。


(そう、こいつ、がいなかったら)
ちらりと出来るだけ自然を装って俺さまの隣を歩いている男、ユーリを見た。
俺さまよりは短いけれどそれでも男じゃ長い部類に入るだろう長髪は今の空の色の様に真っ黒で落ち着く。(実はこの黒髪がお気に入りポイントだったり)
すらりと長身なのは気に食わない。まあ1センチしか変わらないけれど年齢は俺さまの方が一つ上なのだからそこは大人しく小さかった方がまだ可愛げがあるものを。
…可愛げ。自分で言っててぞっとする。この生意気な正確が変わらない限り身長だどうなろうと可愛くないのには変わりないか。


「カップルばっかだな。クリスマスってわけでもねーのに」


唐突に投げ掛けられたその言葉に脳内で繰り広げられていた会議が強制終了し、ユーリの首元で揺れるネックレス(ちなみに色違いが俺さまの胸元にある)を見てから視線を深い瞳に移す。
自信有りげに口元で弧を描きながら俺さまを見つめる瞳は吸い込まれそうなほどに美しくて不覚にも心臓が高鳴ってしまう。(嗚呼本当に、気に食わない)


「その中を野郎同士で歩いてるなんて、俺さま超惨め」


残念そうに落胆の様子をすれば全然堪えてなさそうに嫌じゃねー癖に、と生意気な事を言ってきた。何を根拠に言ってんだこいつ。むかつく。(当たってるから、尚更)
にぎやかな街中を歩いて目当ての建物に辿り着く。それなりに立派な白を基調としたマンションに入り、一番最上階まで上がっていき、ある一室に入る。
高級マンションにあまり似合わないシンプル過ぎる部屋は我が家ながら無機質な感じがすると思う。まあ、一人暮らしだと荷物とか少ないしこんなもんなのかもしれないけど。
テーブルの上に鍵を置いてテレビの電源を入れれば聞こえてくる人気歌手グループの今年流行った曲メドレー。どれも聞き飽きたものばかりだ。


時計を見れば、11時過ぎ。知らない間に今年終了まで後30分をきっていたらしく、今更ながら外の人の多さに納得した。
不意に感じる頬の冷たさに驚いて声を上げると、隣から聞こえてくる笑い声。俺の手冷たいだろ?当たり前だ馬鹿。
そんな在り来たりな会話をして、帰りに買ってきたビールを開けて今年最後の乾杯をする。本当はあんまり酒とか好きじゃないけれど、今日くらいは良いかもしれない。


それにしても初めてかもしれない。こんなにもきちんと(と言っても、ビールで乾杯しただけなのだけれど)年を迎えようとしているなんて。
思えば今年はいつもと違った。何と言うか、世界に色が付いていたというか、ちゃんと生活していたというか、よく分からないけれどそれがユーリのお陰だというのは分かる。
この俺さまが他の誰かを本気で好きになるなんて有り得なかった筈なのに、きっとこれは嬉しい誤算だな。
ソファに隣同士で座って、何となく肩に凭れかかって、ビール飲んで、寒いだのなんだの年末とか関係ない話して。それだけの事が、幸せだと感じるんだ。


「なあ、ユーリは今年やり残したこととかねーの?」


何となく疑問に思って聞いてみれば、うーん、と難しそうに考え込んでしまった。こいつは無い物ねだりとかしなさそうだし、やり残した事とかは無いのかもしれない。
あ、とユーリが声を上げたので何かあったのか聞いてみれば、実に楽しそうに微笑みながらああ、大事な事してなかったぜ、と俺さまの頬を撫でてきた。
急な行動に驚いて離れようとしたけれどいつの間にか腰をしっかり押さえられていて逃げる事は不可能な状態。
俺さまに触れてくる手が普通の触り方じゃないというかやけに密着してくるものなので、もしやと顔を上げれば、それを肯定するかのようににっこりと笑うユーリ。


「今年中に一回くらい抱きたいと思ってたんだよな」


「な、何考えてんだよっ、馬鹿じゃねーの…!変態!」


あまりにストレートすぎるその言葉に、思わず手元にあったクッションを咄嗟に男の顔面にぶつけた。そういう事言って恥ずかしくないのかこいつ…!
そう、俺さまとこいつの間にはまだそういう関係は無くてキスまでしかしたことの無いという中学生並みに健全な付き合い方をしてきている。
だって男同士だと色々大変だろうし、というか痛いだろうし。いやまあ俺さまがこいつに、なら考えられなくはないけれど、こいつの場合それはまずないだろう。
相変わらずテレビからは賑やかな声が聞こえてきて、ついに10分前ですねーという緊張感の欠片も無い司会者の声が聞こえてきた。
今年終了10分前に俺さま達は一体何の話をしてるんだ。有り得ないだろう。不健全だ。(女遊びしまくりの俺さまが言っても全然説得力無いのは分かってるけど)


「ほら、いそがねーと年が明けちまうだろ?」


「何を急ぐんだよっ、しないっての!」


クッション一つを挟んだ攻防戦の何て見苦しいことか。ユーリの方がこちらに乗りかかってくる形になっているので、自分とこいつの両方の体重を支える俺さまが圧倒的に不利。
今にもバランスを崩してしまいそうな腕を必死に突っぱねるも、押し切られるのも時間の問題である。くそ、何で華奢な癖に力強いんだよ…!
何に対しての文句か自分でもよく分からないままぐるぐると同じような事を頭の中で考える。そうでもしていないと正気が保てない様な気がした。
何故なら、乗りかかってくるこいつは俺を押し倒そうと力を込めながらもゆっくりと服に手を掛けてきていたから。嗚呼もう冗談じゃない!


「…ん、ゼロス、何でお前目に涙溜めてんだ?」


クッションがずれた事から見えたのだろう、俺さまの瞳に溜まるそれを指摘され、その一言に恥ずかしさやら悔しさやらが込み上げて来て体中が一気に熱くなっていく。


「だ、だって折角お前と年越せるのにこんな事ばっかりしてくるから…っ」


いつからそんな純情路線に走ったんだと言われてしまいそうなほど似合わない台詞だったと言われそうだけど、そう思ったんだから仕方ないだろう?
俺さまだってこいつが好き。そ、そういう事だって今は心の準備が出来ていないだけでいつかはその、してもいいと思っているんだ。
ただ、もう少し待って欲しい。せめて今ぐらい、のんびりと過ごしても良いだろう?
瞳に溜まり続けるそれをユーリの細く綺麗な指を掬う。嗚呼、俺さまってば女々しすぎる。年下に押し切られそうになって泣きそうになるなんて、今年最後の恥晒しだ。


「…悪かったなゼロス。少し調子に乗りすぎた」


全くだ。馬鹿野郎。テレビからさあいよいよカウントダウンの開始です!とはきはきとした声が聞こえる。カウントダウン。嗚呼こんな感じで終わってしまうのか今年。
最後の最後の表情が泣き面だなんて誰が想像出来ただろう。嗚呼、こんな事になったのもこいつの所為だ。そうだ、なら。


「おい、馬鹿ユーリ」

5、 4、

「ん、何、」

3、 2、 1!

ちゅ。

明けましておめでとうございます!


「……ぷ、変な顔」


俺さまが去年ぎりぎりに仕掛けたのは、初めてかもしれない自分からのキス。もちろん、唇に。
案の定ユーリは驚いて目を大きく見開いたと思ったら何とも言えない様な顔をした。(少し頬が赤くなっているって事は、ああこいつ照れてる?)(それは、少し可愛いかもしれない)
去年最後が泣き面だった俺さまに、今年最初が変な顔のお前。嗚呼ほら、おあいこだぜ?
そう言ってしてやったりと笑えば、ユーリも同じようにへらりと笑った。


「あけおめ、ユーリ」


「ああ、おめでとさん。今年もよろしくなゼロス」


(今年もたくさん、君とキスが出来ますように!)






thanks! 38℃の欲槽

 2010 ハッピーニューイヤー!


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ