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□片想いはじめました。
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※ヒュ→パス。


恋沙汰に現を抜かす位なら鍛錬の一つでもしていた方がよっぽど有意義な時間の使い方でしょう、と幼馴染の彼女に言えば何言ってるの、と怒られました。
そんな事言ってると本当に好きな人が出来な時、ヒューバートが困るんだからね!と叱られる始末。
僕にはその困るという事がいまいち理解出来なかったのです。
それに、きっと自分には関係ないであろう恋愛に夢を見ていて、いざ敵に襲われた時に鍛錬不足でピンチに陥る方が僕的にはずっと困ると思うのですが。


(恋愛なんて、しませんよ)


そうですね、でももし僕が誰かを好きになる時が来るのなら、きっとその人は品行方正で尊敬に値する素晴らしい方なのでしょう。


そう、品行方正で、素晴らしい、


「弟くーん!あっちに面白そうなものがあるよ〜!」


僕から少し離れた前方でぶんぶんぶんぶんと両手を振って、小さな体をぴょんぴょんと大きく動かしているのは、仮にも22歳の成人済みの女性。
品行、の欠片も無いその行動は僕の理想女性から大きく離れており、悪く言ってしまえば付き合いを考えたくなる部類の人かもしれません。
いつも人を振り回して、マイペースで、風呂に入らない。


(嗚呼、本当にパスカルさん、貴女と言う人はどうしてそうなんですか!)
僕の心の叫びが彼女に届く訳も無く、相変わらず両手を振って僕が自分のところにくるのを待っている。


白と赤のコントラスト。
今僕達のいるのは雪山であり彼女の白は混じってしまいそうなのに決してそうではなくて、より一層きらきらと光る銀の美しさが目立つのです。
イチゴミルク、と最初に表現したのは誰だったかもう覚えてはいませんが、彼女っぽくて良い例えかもしれません。


子供の様で、無邪気で、それでいて、触れたら甘いのでしょうね。
ムッツリだと以前兄さんだったかシェリアだったかに言われた言葉をふと思い出し、必死に脳内で否定する。
僕はそんなんじゃありません、というよりも、パスカルさんをその様な目で見る事自体有り得ない、


「どったの弟君、変な顔してるよ」


ドクン。いつの間に傍に寄ってきたのか、超が付くほどの至近距離で僕の顔を覗きこんできたパスカルさんと目があった途端、大きく心臓が飛び跳ねた。
あ、あ、有り得ない。どうしてこんなにも僕が動揺しないといけないんですか。落ち着いて下さい、相手はパスカルさんですよ?
フラフラと猫の様に直ぐにどこかに行って心配を掛けるし、突拍子の無い発言なんて当たり前で、そもそも風呂に一週間入らないパスカルさんですよ!
誰かが見ておかないと何をするか分からなくて、でもへなりと笑う無邪気な笑顔を見せられると全てを許してしまいそうで。
皆が落ち込んでいても、ぎくしゃくしても(僕は、きっとさせている側なんでしょうね)、彼女だけは変わらずその笑顔と言葉で場を明るく元気付けてくれる。
その笑顔と優しさに何度も救われて、勇気付けられて、元気を貰って。


(だから、僕は)
………………って、な、な、何を言ってるんですか僕!
い、今のではまるでこの気持ちを肯定してしまっているかのようじゃないですか、違う、違います、だって彼女は世話の焼ける仲間、それだけで。
言ってるでしょう、恋なんてものをしてしまったら鍛錬が疎かになってしまっていざという時困るんですって、だから、お願いですから、もう少し離れて下さい!


「……弟くんてばー、…もう、ヒューバートってば!」


(………?!)


嗚呼この人今何て言ったんですか、ヒュ、え、今、僕の名前呼んだんですか?
どうして今に限ってそんな風に呼ぶんですか、反則だ、嗚呼ほらそんな事するから僕の脳が気付いてしまった。


「……にっ、兄さん達の所に先に行ってますからね!」


「あ、もう、待ってよー!」


本当に好きな人が出来な時、ヒューバートが困るんだからね、不意に幼馴染の声が蘇り、嗚呼こういう事だったんですねと遅すぎる理解をした。


(この気持ちは、敵よりもずっと手強いです…)



thanks! Canaletto


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