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□とある夕食にての彼
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「寒い、ね」


任務帰りに自分の手を合わせながらそう言ったファラの一言に同意したのは、同じ任務のメンバーだった俺とジーニアス、それにイリア。
雪こそ降っていないものの、いつもよりも風が強く気温が低い今日は中々に耐えがたい。
こんな日はとびっきり温かいものが食べたいんだがな、そう考えて出た答えをそのまま口にする。


「……今日の夕食は鍋でも食べるか?」


その俺の言葉に三人は目をキラキラさせて頷いた。今日の料理当番は丁度俺だし、好きなもん作っても構わないだろう。
じゃあさっさと帰って支度しましょうよ!嬉しそうにそう言って走り出すイリアに俺達も同意して走り出した。
帰ってきたと思ったら食堂にまっしぐらな俺達(まあ主にイリアが、だけど)に他の仲間達は不思議そうに見てきて何だ何だと傍に寄ってくる。
育ち盛りの多いここでは晩飯のメニューというのは想像以上に重要なものらしく、カイルやリッドを始めとしてわらわらと様子を見に来た。


「なあなあファラ、何作るんだ?」


「お鍋だよ。とびっきり美味しいの作るから待っててね」


葱を片手ににっこりと微笑んで言ったファラの言葉に周りから鍋だ鍋だと期待と嬉しさの声がどっと上がる。
作り甲斐があるね、とジーニアスが笑ってきたので、全くだ、と笑顔で返し料理に取りかかる俺達。
俺達の他にも比較的ここのメンバーで料理上手なクレアやナナリー、ロイドやガイまでが手伝ってくれる事になり、一見何をしてるんだというくらいの大人数となった。
何の記念日であるというわけでもないのだが、たまにはこう言うのも良いかもしれないなと俺はまた一人笑う。


流石大人数だったためかそれほど時間も掛からず鍋は出来上がり、いくつかのテーブルに分かれて置かれていく。
早食い競争でもやっているのかと思う程良く食べる者同士や、のんびりと喋りながら食べる者同士、綺麗に分かれたらしくそれぞれの鍋を囲んでいる。


さて俺はどこで食べるとするかな、と視線を一番近くのテーブルに移すとすさまじいオーラが渦巻いており、その中心にはカイルとリッドの姿。
リッドさんはさっきからお肉ばっかり食べすぎですだの、美味いんだから良いだろだの大声で言い合っていた。
まあリッドが取った肉の半分はファラとキールの分なんだが、変な所で言葉が足りないというか何と言うか、リッドらしいなとその奥のテーブルに目をやる。


こちらは女性陣同士で華やかに食事中で、ミントやらリフィル、アニーやリアラ達など綺麗どころが会話に華を咲かせていた。
流石にこの中に入っていくのは気が進まないなと苦笑してちびっ子グループに目をやれば、聞こえてくる愉快なメロディー。


「お〜なべ〜、お〜なべ〜、おいしいな〜」


歌いながらの乗りでぱくん、と大根を食べたマオは熱いっ、と叫んで隣のすずに助けを求めている。
慌てて水を差し出しているすずと、馬鹿じゃないの、という目でその光景を見ているジーニアスとアニスは中々微笑ましい。何をしても可愛いのはちびっ子の特権、かね。
さて、そろそろどこかのテーブルにいかないと自分だけ夕食を食べられなかった、なんて事になってしまう。


そう思っていると、不意に差し出されたうつわ。その中には色々な野菜と肉が丁度良い位の量で入っており、自分が作ったものと言えど食欲をそそる。
差し出してきたのは、ふわふわの赤毛が特徴的で一見女性と見間違えてしまいそうな男。ゼロス・ワイルダー。
キャラが被ってるだの、天敵だの散々言われていたから、嫌われているのだと思っていたけれどそれは俺の思い違いだったらしい。
ありがとなと礼を言ってうつわを受け取り、立ち食いなのが一瞬過ぎったが気にせず野菜を口に運ぶ。うん、美味い。


ちらっと、ゼロスの方を向けば何故か頬を赤く染めて俯いている。
少なくても俺の知っているこいつは飄々としていてお調子者だったので、今の姿があまりも初々しく映ってしまい、思わず食事をする手を止めた。


「…なあゼロス、お前、どうかしたのか」


「………え、いや、えっと、」


何と言うか、歯切れが悪い。
もしかしたら聞かなかった方が良かったのかしれないと思い、やっぱりいいわ、と言おうとすると、ゼロスが思いきった様に口を開いてきた。


「良かったらさ、あっちで一緒に食べね…っ?ロイド君とかルークとかアッシュも一緒だし…!」


ゼロスの指さす方向を見れば、確かにロイドにルークとアッシュ、がいる。若干アッシュが怒っている様に見えるがルーク曰くあれはあいつのデフォ状態らしい。
ロイドが俺達の視線に気付いたらしく軽く手を振ってくれた。多分あいつほど無意識に人を好かせる奴はいないと思う。


どこで食べるか迷っていたところだし、折角声を掛けて貰ったのだからとお言葉に甘える事にして、そうさせてもらうわ、と返事をした。
その言葉に予想外にゼロスが嬉しそうに微笑んできたのに驚いたけれど、まあ、何と言うか、いいんじゃねえの?
何気なく発した一言だったけれど、皆が喜んでくれたみたいだったので俺的には満足な夕食になったと思う。


(ゼロスの態度は、未だに謎だけどな)






皆でお鍋してる様子が書きたかっただけです…!
ゼロスのとこなくても良かったですね(・・;)


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