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□A happy hymn to you!
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初めて来た無名とも言える森の中を迷っているうちに僕達はとても綺麗な小川の流れる色鮮やかな花が咲き誇る場所に辿りついた。
もちろんここが何と言う場所なのかも分からないけれど、その自然は僕達に休息の時間を与えてくれる事だけは確かだろう。
少し休もう、誰もがその景色を見て口々にそう言ったので自然と解散になった。


コレットやしいな、プレセアは小川に素足を浸して色取り取りの花を見て楽しんでいるし、リーガルはノイシュに寄り添い木陰で静かに目を閉じている。
姉さんはこの森について興味があるのか頻りにうろうろしながらもその景色を眺めているみたい。
そう言えばあの五月蝿いアホ神子の声がしないな、ああそう言えばロイドも、そう思って辺りを見渡せば、小川の近くの原っぱに見える二つの赤。
それ程離れている訳では無かったので少し歩けば顔もはっきりと映るぐらいになって、そこで僕は気付いた。


(……え?)


明らかに、ロイドの体勢がおかしい。
ロイドは寝転んでいた、うん、それは良いと思うよ、気持ち良いしゆっくり出来るしね。でも、少しだけ問題があると思うんだよ。
寝転んでいるという事は自身の頭も原っぱに埋もれている筈なのに健康的な茶毛は僕からもしっかり見えていて、それもその筈、あるものに頭を預けていたから。
あるもの、それは、何を間違えたのかよりによって、ゼロスの、膝。つまり世に言う膝枕が完成している状態な訳で。
それを理解すればするほど心臓の鼓動が早まっていくようで落ち着かせるのに必死になってしまう。


待って、ねえロイド何しているの、…っていうかアホ神子の奴何させてるんだよ!
僕の中の膝枕は女性が男性、まあ反対の場合もあるのかもしれないけれど、異性、というよりも、恋人同士がやるものという認識が強かったから余計にショックが大きい。
流石に僕からの分かりやす過ぎる視線に気付いたのかロイドの髪を撫でていたゼロスが不思議そうに顔を上げて僕に何だよ、と声を掛けてきた。
何だよと言われても返答に困る。だって、こっちが何してるんだって聞きたいぐらいなのに。


「…何でロイドはあんたに膝枕して貰ってるの?」


結局良い返答が見つからなくて馬鹿正直に疑問をぶつけてみれば、きょとんと不意を喰らった様な表情でゼロスはそうだなあ、と考え始める。
というよりもさっきからロイドが一言も口を開かないというのは、その前に僕に見られているのに起き上がらないのはどういう神経してるんだろうか。
僕だったらそんなの耐えられないよ。恥ずかしくて堪らない。
そう言われてもな、と言うゼロスの言葉で僕の意識は引き戻されて慌てて話を聞き始める。


「ロイド君がして欲しいって言ってきたし、まあいっかな、って」


その言葉に僕が激しく矛盾を感じたのは決しておかしくはないと思う。だってこいつはいっつも自分以外の男に対して冷たいし、野郎、とか言ってる癖に、何だよ今の言葉!
それに何と言うか、さっきからロイドに対する眼差しとか触れる手が妙に優しく感じるんだよね、仲間に触れるというよりはまるで、そう。


「旦那を労わる嫁、みたいね」


いきなり後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返れば、そこには姉さんの姿。
思っていた事をそのまま代弁されてしまって、僕の口は言う筈だった言葉を言えずに中途半端にあいたままで、多分すごく間抜けな顔になってると思う。


良く見ると姉さんじゃなくて他の事をしていた筈の他の皆も何だ何だと興味深げに楽しそうに僕達の周りへ集まり始めている。
そして皆の視線は自然と僕の同じ方へといく、そう、膝枕中の男同士へと。(うん、だって、どう考えたってこの光景は可笑しいもんね)
でもゼロスはどうしてそんなにも見られているのか全く分からないと言った様子で僕達を見ながらも、変わらずロイドの髪をゆっくりと愛おしそうに撫でている。


そして、すっと人差し指を自分の唇に当てたかと思うと、小さな声で静かに、と囁いた。
その言葉で僕は今までロイドが一言も喋らなかった理由をようやく理解した、ロイドはゼロスの膝の上で寝てる、だから僕の声に反応しないのも当然なんだ。
規則正しい呼吸音を繰り返し、軽く胸を上下させて眠っているロイドの姿は本当に安心しきっていてますと言った感じで姉さんじゃないけれど夫と妻に見えてきそうで。


コレットが気持ちよさそうだねロイド、と言えばゼロスは嬉しそうに笑って何を思ったか不意に髪を撫でていた手を止めて額の髪を軽く払った。
何をするんだろう、そう思ってぼんやりみていると、どんどん近付く二人の距離。
さらさらと赤く美しいゼロスの髪が肩から流れるように落ちていくのは何と言うか悔しいほどに綺麗で見惚れてしまいそうになった瞬間、僕は大きく目を見開いた。


ちゅ。


近くには小川が流れていて微かだけど音は聞こえてくる筈なのに、それが聞こえない代わりにそのリップ音は僕の耳にしっかり届いた。
いまいち状況把握が出来なくて頭の中がちょっとしたパニックに陥りそうになる。だって、そんな、ええ?


(ゼ、ゼロスがロイドにちゅーした…!)


唇じゃなくて額、という事が唯一の救いなのかも知れないけれど、それでも僕や皆の心を乱すのには十分過ぎて、後ろを見ればしいなやコレットが恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
リーガルや姉さんも照れてはいないこそすれどうすればいいのか分からないと言った感じでただただ溜め息を吐いている。冷静なのは、プレセアぐらいなもの。
押し黙ってしまった僕達を気にする事無く、ゼロスは小さな声で眠っているロイドに語りかける。


「ハニー、そろそろ起きろよ?」


その声の大きさはいつものロイドなら絶対起きないぐらいの小さなものなのに、まるで最初から寝ていなかったかの様にすんなりと目を開いた。
あまりに良過ぎるその反応に、姉さんは私が授業中起こした時にはいくら呼んでも起きなかったのに、と少し怒っている様子。
僕にだってその気持ちは分かるよ。同室の時何度呼んでも起きてくれないのにどうしてこいつの時はすんなり起きれるんだよ、ロイドの馬鹿。


んん、とまだ寝足りない様な声を上げながらもロイドはぼんやりと目を開けて目の前にあるゼロスの顔を見た途端、へなりとだらしのないぐらいの笑顔を見せて笑う。
そしてゼロスに手を伸ばしたかと思うと優しく頭を自分の方に近付けた。そうすれば自然に、寝ていたロイドにゼロスがした事を同じ事が起きるわけで。
ただ一つ違うとすれば、それが触れたのが額ではではなく、唇、という事で。


ちゅ。


その甘い音に今度こそ僕は大パニックで、あの二人は何してるの!と姉さんに半泣きの状態で駆けよれば仕方がないのよあの子達は、と妙に諭されてしまった。
何が仕方ないの、僕には訳が分からないよ…っ、そう思って僕の横にいたしいなに同意を求めようとすれば、それよりも早くしいなが口を開く。


「なっ、何してるんだいあんた達!子供もいるのに不健全だろ!」


そう言って怒るしいなを宥めるリーガル。子供って単語にはかなり納得がいかないけれど確かに僕も不健全だと思う。(それ以前の山ほど問題もあるんだけどね)
でも当の本人達はやっぱり自分達のしている事のどこに問題があるのか分からないと言った様子でしいなが怒っていたり、コレットが恥ずかしがっているのにもぽかんとしている
そして今まで眠っていたロイドが眠たそうに目を擦りながらゼロスの膝から起き上がった。


「何してるんだって…。起きたらいつもやってるし…別に可笑しな事じゃないだろ?」


なあゼロス、とぽんぽんと赤毛に触れればうん、と恥ずかしがる事無くゼロスは平然に答える。
いつもやってるって、貴方達毎朝起きたらそれしてるの?怖々と言った様子で姉さんがそう問えば当たり前の様に二人してこくんと頷いた。


「まあそれだけじゃなくて、俺がゼロスの髪梳いてやったり、ゼロスが今みたいに膝枕してくれたりした時もするけどさ。簡単に言えばありがとうの代わりかな?」


ありがとうの代わりと言う割にはちゃんと口で言っているのだから別にしなくてもいいじゃない、そんな事は幸せそうに微笑み合う二人を前にしてとても言う事が出来なくて。
ていうか日常茶判事にこんな事してるのこの二人、とぐるぐる疑問が渦巻く。
こそっと後ろからリーガルが、本人達が満足しているのだからそれでいいだろう、と言ってきて僕はもう何も言う気が無くなってしまう。
だって悔しいけれどリーガルの言っている事は正しいと思うんだ。
僕の大好きなロイドが大好きな人と幸せそうに微笑んでいる、相手に若干納得いかないけれどこんなにも幸せそうならもうそれでいいのかもしれない。


「ゼロス、大好きだからな!」


「俺さまも愛してるぜ〜ロイド君」


こっちが見てて恥ずかしくなってしまいそうな事を普通にしてしまう二人は何だかんだでお似合いなのかもしれないね、と本人達に気付かれない様にこそりと話す。
でも僕達だって二人が大好きだからこうやって笑っていてくれる事が嬉しくて堪らないんだ。
皆で目を見合わせて合図をして、ちょっとロイド君太ったんじゃない?ええまじかよ、そんな間抜けな会話をしている二人にゆっくりと近付いて、思いっきり抱きついた。


「えへへ、私もゼロスに膝枕してもらいたいな!」


「罰として…今日の料理当番は、ロイドさん一人です」


「ええっ!?何だよそれ〜、あ、くっつき過ぎだぞコレット!」


ロイドもゼロスはお互いが特別かもしれないけれど、僕達だって二人が大好きなんだから、これくらいは許してね?


(大好きな彼等に、とびっきりの幸せを!)


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