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□眠れ眠れ
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結構、ううん、今日はかなり寒くて、それはもう女性陣が寒すぎるからって同じ部屋でくっついて寝ようとするくらいには。
ルビアもそのくっつき虫の一員なのかさっき廊下で擦れ違った時マイマクラをいそいそと持ってどこかに向かって行った。
カイウスも来る?子供だからきっとオッケーして貰えるよ。なんて言われた時、思わず考えそうになったなんて誰にも言えないな。


だって、それくらい今日は寒い。
ならさっさと寝てしまえば良いのだけれど生憎とまだ目はぱっちりと開いていて眠気なんて一向に来ないのだから困りものだ。
どうしよう、ルカとか起きてるかな。このまま一人でぼんやりしているのならルビア達の様に誰かの部屋に行くのも良いかもしれない。
でもきっとルカは空いている時間があるのなら勉強したいだろう、ジーニアスもきっと同じ。
カイルはリアラと居たいだろうし、……マオはちょっと五月蝿い。駄目だ、行く宛てがない。


同年代の奴とは結構話すから慣れているのだけれど、17歳連中くらいになるとあんまり関わった事がないし、20歳こえになるとこっちの気が引ける。
そもそも俺はそこまで友好的じゃないというか、種族の隔たりであんまり人に良い印象を持ってこなかったからいざ友達になんて簡単になれないんだ。
ここの連中が他の奴等とは違う事くらい俺にだって分かってる。けれどやっぱり、少し怖いんだ。


はあ、と溜め息をついた時に部屋の外からくしゅん、とくしゃみが聞こえた気がした。
また女性陣の誰かが部屋を行き来しているのかと思ったけれど廊下から聞こえてきた声は明らかに男のもの、しかも多分そいつは、。


「……ユーリ?」


ドアを開いて廊下に少し顔を出した時、俺の視界に入ったのは思った通り漆黒の髪をさらさらと揺らして歩く皆の兄貴的存在であるユーリの後ろ姿。
俺の声に反応してこっちを見たユーリは大人の余裕とでも言うのかへらりとした笑顔を見せて近付いて来た。何と言うか、寒そうだ。


何となく放っておけなくて、部屋に入るか、と聞けば頼むわ、と苦笑気味な微笑みを浮かべたユーリにほんの少しどきりとしたのは何故だろう。
ユーリを部屋に入れて何か飲み物でも、と棚を開けるとココア粉の缶が目に入った。コーヒーもあった筈なのにいつのまにか飲んでしまったらしい。


「ごめん、コーヒー切れてて、ココアで良い?」


ぼんやりとベッドに腰かけていたユーリに缶を見せれば、想像していたよりも明るく嬉しそうな笑顔で、もちろん、と返された。
俺はココア甘いし好きだな、と言う言葉に安心を覚えつつ、俺は甘いからココア嫌いだな、と否定的な返事をする。
基本的に甘いものが苦手な俺にしてみれば皆が喜ぶケーキだってアイスだって、もちろんココアにしても甘いから嫌いなんだ。
あんなの胸やけがするだけじゃないか。


コトン、とユーリが座っているベッドの近くに淹れたての温かいココアを置けば有り難うなとお礼を言われた。
それは当たり前の事の筈なのに何と言うか珍しく感じてしまうのはここにいる大人達が基本偉そうな奴が多いからだろう。
確かにユーリは大人だけど他の奴とはちょっと、いや、大分と違う気がするけれど、それは俺にとっては良い方に違うのだ。
気取ったりしないし、偶に俺達に対して子供扱いもするけれど大体は誰に対しても常に平等に厳しく優しい。


多分こいつは、さっき考えていた20歳をこえている奴に対してはこっちが気を引けてしまうという考えの数少ない例外だろう。
決して良い大人ではないのかもしれないけれど、俺にとっては頼れる存在になるのかもしれない。


「……それにしても、こんな寒い中廊下をうろうろしてどうかしたのか?」


ふと本題を思い出して尋ねてみれば、ユーリは苦虫を噛み潰したような表情をしてその理由を話し始めた。


「今日、お嬢さん方がお泊まり会するだろ?あれで俺の部屋使われるんだよ」


どうやらエステルの部屋近くで皆が集まるらしく、その近くの部屋は今日一晩占領されるだらしい。何とも迷惑は話しだと思う。
多分ユーリの他にも同じような被害、と言ったらルビアに怒られるかもしれないけれど、後二、三人もこういう奴がいるのかと思うと同情してしまう。
でも心の底で自分の部屋は使われなくて良かった、だなんて思っているのだから俺も大概酷い奴なのかもしれない。
だってこんな寒空の下、当ても無く廊下を歩くなんて絶対に御免だ。


ご愁傷さま、そう言ってユーリの隣に座れば、まあエステルも楽しそうにしてたし良いんだけどな、と優しい眼差しをした。
ユーリはエステルの護衛として傍にいるらしいけれど、傍から見ればこの二人は本当の兄妹の様に見える事があるんだよな。
何と言うか、そう言うの少し憧れるというか、こんな風にユーリに想われているエステルがほんの少し羨ましいのかもしれない。


……んん?何言ってるんだ俺。


ふわあ、と隣から聞こえてきた欠伸に壁に掛かってある時計を見れば、丁度時計の針同士が重なろうとしている。
俺にすれば結構夜更かししている方なのだけれど、ユーリにしてみれば夜はこれから、という感じなのかと思っていたけれど意外とそうではないらしい。
ぼんやりとしながら目を擦っている姿は下手をすれば俺よりも子供っぽく見えてきてしまう。
眠いのか、そう問えば何度か瞬きを繰り返してさっきまでの笑顔よりも少しほんわりとした笑顔をしながら言葉を返してきた。


「んー、今日の任務もハードだったからな…、ふわあ」


多分ユーリは前線の上に実戦経験が比較的他の奴よりも多いから、本人も気を使ってか他よりも多少難しい任務をこなしているのだと思う。
尊敬するのと同時に、もう少し自分を労わっても良いのではないかとも思ってしまう。
体を大事にして欲しいのは当たり前だけど、ここにはユーリを大切に思う奴がたくさんいるのだからそいつらを悲しませるような事もして欲しくないんだ。


…何て思うのは勝手すぎるのかもしれないけれど。
一人で部屋にいた時に寝転がっていたせいで少し乱れてしまっているシーツを整えて、ぽんぽんと軽くベッドを叩く。


「…ほら、ここ使って良いから」


俺よりもずっと疲れているのだからベッドで寝た方が良い、と腕を引いてそう言えば、ユーリは驚いたような表情で俺を見て、すぐに笑顔になった。


「色々とありがとな。でも今日はお前が言ってた通り良く冷える。だから、ほら」


そこまで言って俺の肩をに手を乗せたかと思うと、そのまま後ろに崩れるようにしてベッドに寝そべる形となった。
その行動に流石に俺も吃驚して、え、え、と声を上げれば、二人で寝れば寒くないし良い案だろう?と頭をわしゃわしゃと撫でられる。
あんまり子供扱いされるのは好きじゃないのだけれどユーリに頭を撫でられるのは嫌じゃないかもしれない、と少しずれた事を考えてしまう。


でも、言ってしまえば嫌じゃないんだ。
こうして20歳をこえているユーリと決して多くない会話を交わすのも、ちょっと意外な一面を見て驚いたりするのも、こうして一緒に寝るのも。
全部全部、嫌じゃないんだ。その理由は、俺にも良く分からないけれど。


布のふわふわとした感覚とふわりとしたユーリの決してそこまで高くない体温の温かさが、俺をゆっくりと包んでいく。


(白いシーツに体を沈めるユーリが、何だかとても綺麗に見えて何故かどきどきしてしまっただんて、誰にも言えないな)


寒くて寒くてしょうがなかった筈なのに、いつの間にか寒さなんて感じなくなっていた。
そしてそれと変わる様に訪れたのは、今まで無かったというくらいの、優しい眠り。


(………温かい)


ほんの少し、寒がりの女性陣に感謝した。


thanks! wizzy


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