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□君を思う ただそれだけが 言葉にならない
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※ゼロス出てきません。シリアス。




遠いな、そう思ったのは今に始まったことじゃない。いつだってあの人は僕の先を歩いてて近付こうと頑張るほどそれを見透かしてるみたいにもっと遠くに行ってしまうんだ。
これじゃあいつまでたっても横に並ぶことなんて出来ない。…いつまでたっても僕の想いを伝えることも出来ない。ずっとこのまま、一線を置いて見つめているだけ。
でもきっとこれが一番良い状態なんだと思う。だってもうあの人の周りには強くて優しくて頼もしい人がたくさんいるから、僕の想いが叶うことなんてあるわけないのだから。


「初恋って、報われないんだね」


(……弱気だな。今に始まったことじゃないが)


僕以外の声が響く。外側からじゃなくて、内側、僕の中から。口が悪くて不良みたいで、横暴でいじっぱりで、………僕よりもずっと男らしくて格好良いラタトスクの声。
ラタトスクのあからさまな嫌味に何も反論出来ないのが少し悔しいけど事実だからしょうがないのかもしれない。ほら、今だってこんなこと思っちゃってるんだから駄目だよね。
魔物と戦う勇気は何とか持てた、けど、想いを伝える勇気ってどうやったら持てるんだろう。それにもし勇気を出して告白出来たとしても、あの人に拒否されるのを考えると怖くて堪らない。
どれだけ力を付けたても根本的に弱虫な所はちっとも変わらなくて、そんな自分が嫌になる。「駄目だ、僕」そう言葉を零して思わず自嘲的な笑みを浮かべた。


(ふん、そんな弱気のお前にぴったりの相談相手が来てくれたみたいだぜ?じゃあな、精々悩めよ馬鹿エミル)


人が悩んでいると言うのに何でそんなに楽しそうなんだよと文句の一つでも言ってやろうかと思ったけれど、何となくラタトスクが眠りについたことを感じて諦めた。君ってほんとに意地悪だ。
それにしても僕にぴったりの相談相手って何ことだろう、と首を傾げると、後ろから不意に名前を呼ばれた。驚いて振り返ると、そこにはちょっと疲れ気味な表情を浮かべたヴェイグさんの姿。
でも疲れているのは不思議じゃない。丁度この部屋の真下で大人組の人達が宴会みたいなことして盛り上がってるから、飲み過ぎない様に見張ってたのがヴェイグさんだから。


「……少しここで休ませてくれ、…あいつ等の相手は魔物よりも骨が折れる」


仮にも仲間に対して使う言葉じゃない気がするけれど、多分この表現が適切なくらい酷いことになってるんだと思う。今日はもう下に降りない方が良いかもしれない。
多分、あの人も下にいるだろうな。と言うよりも、未成年に飲ませようとしてくるのがあの人な気がしてならない。微妙に息が合ってるジェイドさんとチーム組んで囲んできそう。


下には行かないから大丈夫です、とへらりと笑って答えれば、それが良い、と優しい笑顔で微笑み返してくれるヴェイグさん。僕とそこまで歳も変わらないのに何だか大人っぽくて羨ましいよ。
あまりにも僕がじっと見るものだから不思議に思ったのか、ヴェイグさんがどうかしたのか?と尋ねてきた。笑って誤魔化してみるけれど全然効果は無いらしく、挙句の果てには悩み事か、と当てられる始末。
ラタトスクはこうなることを気付いていたからあんなに楽しそうだったのかな。見透かされているみたいで納得いかない。……でも、誰かに相談できる機会はもうないかもしれないと思ったらつい口が開いてしまう。


「……自分の想いを伝えるのが怖くてしょうがないんです。…こんなの、男なのに情けないですよね」


無理矢理笑顔を作って茶化してみるけれど自分の気持ちを抑えることが出来なくて、ついには涙まで溜まってきた。本当に情けない。こんなんじゃあの人どころかヴェイグさんにまで嫌われてしまいそうだ。
ぽん、と頭に軽く重みが掛かる。それは僕よりも少し大きくてとても温かいヴェイグさんの手。あまりにも優しく頭を撫でてくるものだから僕の必死の自制心は今にも崩れてしまいそうになる。
これ以上言っても困らせることしか出来ないから、言ったらいけない。涙だって流すべきじゃないんだ。こんな弱い僕じゃあの人の横になんて一生並べない。胸を張って、好きですなんて言えない。


「男なら、想いを伝えられないといけないのか…?」


思ってもみなかったその言葉に伏せてしまっていた顔を上げると、さっきまで笑顔だったヴェイグさんの表情が少しだけ悲しそうに歪んで見えて思わずどきりとしてしまう。どうしたんだろう。


「俺も、自分の気持ちを素直に伝えるのは怖い。だからまだある奴に想いを伝えられないでいる。お前と一緒だ」


「ヴェイグさんも…?」


驚いた。確かにヴェイグさんは他の人達に比べて口数は少ない方だと思っていたけれど、いつだって僕や皆を慰めたりアドバイスをしてくれたり、言いたいことはちゃんと言っていた人だから少し意外だ。
ぽかんと口を開けてしまった僕を見て軽く笑ったかと思ったら、「俺も情けない男だな」と言った。僕は慌ててそんなこと無いと否定する。ヴェイグさんはいつも僕達を支えてくれている、情けないわけが無い!


「…ならお前だってそうだろう?誰かの為にここまで悩めるのは、情けないことじゃない。もっと自信を持てエミル」


その言葉は静かなものだけどすごく力強くて心に響いてくるもので、それこそ今までの不安が全て消えてしまいそうなくらい僕の心を揺るがした。戸惑うのは悪いことじゃない?僕はもっと自信を持って良いの?
脳内にあの人が浮かぶ。女の人しか見て無いようで、任務中ジーニアスやルカが疲れていないか気にかけてるのを僕は知ってる。誰にでも平等に優しさをあげていることをちゃんと知ってるんだ。
そんな姿を見ている内にどんどん惹かれて、いつの間にか好きだと思うようになっていた。もちろん最初は戸惑ったけれどこの気持ちは抑えようが無くて、時間が経つにつれて想いは膨らんでいくばかり。


本気であの人が好き。だからこそ伝えるのが怖くてしょうがなかったんだ。もし気持ち悪がられてしまったらもういつもみたいに僕に微笑みかけてはくれないのだと考えると怖くて堪らなかった。
もちろん今だってその恐れが消えた訳じゃない。けど、心のどこかでそれでも良いって思ってる自分に気が付いたんだ。この気持ちを伝えた上でそう思われるなら、本望だって。
嗚呼、やっと少しだけ、想いを伝える勇気が持てたかもしれない。ラタトスク、今なら君の嫌味にも少しだけ反論出来る気がするよ。それはいつの僕のことだよ?ってね。


「ヴェイグさん、有り難うございます。僕、後悔はしたくない、だから、頑張ってきます」


「……ああ、しっかりな」


その言葉にはいと返事をして僕は部屋を飛び出した。もちろん目指すはあの人の所。僕の想いを受け入れて貰えるかは分からないけど、でもきっと今ならどんな結果になっても受け止められる気がするから。


好き、好きだよゼロス。嗚呼やっと、伝えられる!


「逃げない、か」


ぽすんとベッドに腰を下ろすと伝わってくる冷たさが、まるで自分の心ようだと感じてしまう。エミルのように一歩を踏み出せず、こうしていつまでも傍観しているだけの寂しい自分。
誰にかは知らないが、きっと今のエミルなら自分の気持ちをちゃんと伝えることが出来るだろう。健気な想いがどうか実るように、そう願わずにはいられない。
俺はこのままなのか?伝えず、勇気を持てないまま。人に自信を持てと言っておきながら、自分は何もしないつもりなのか?教えてやるエミル、本当に情けない男と言うのは俺のことだ。
ひらりと視界に映るのは薔薇のような赤。あいつを目で追うようになっていたのはいつからなのかもう覚えてはいないけれど、今でも想いが消えることは無い。自分には不釣り合いな程に熱い想いが胸を焦がす。


愛しているゼロス、誰よりも。この想いが伝わることは、無いけれど。




thanks! h a z y


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