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□とある晴れた日の記録
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今日はそれはそれは見事な快晴で、何より暑かった。まだ春になったばかりだってのにまるで夏みたいな暑さ。偶にあるでしょ?そういうよく分かんない日。ってなわけで人口密度の激しい屋内に居たら暑くて敵わないってことで俺さまは一人外に出て良い感じの日陰でまったりと寛いでた。涼しいし静かだし超極楽。それに目の前は海だから我慢できなくなったら入ることだって出来る。今日一日ここにいるのも良いかも、なんて思い始めていると、近くからばさばさと何かの音がした。後、誰かが話してる声。
海にでも誰か入りに来たのかと音のする方に行ってみれば、ひょこひょこと忙しそうに動く背丈同じな2つの影。1人は空に浮かぶ雲みたいに真っ白で、もう1人は空に浮かぶ太陽みたいに真っ赤。その2つの髪色には見覚えがあり過ぎる。でもセネルとルークだなんて中々珍しい組み合わせじゃねえの?俺さまの知る限りじゃあの2人ってそこまで親しくなかったと思うんだけどなあ。え、何何?もしかして誰も知らない所で今みたいにこっそり2人きりでなんかしてたりするわけ?ばさばさばさ!もう一歩近付こうとした時、さっきよりも大きな音がして何事かと思えば、大きな網5、6個の下敷きになっているルークの姿が目に入った。


「おいおい、大丈夫かよ?」


慌てて駆け寄って網を退かしてやる。お、結構重いじゃんこれ。ルークは結構筋肉あるとしても、よくセネルがこんなの3つも4つも持ててんな。俺さま多分2つくらいで精一杯だわ。そんなこと考えているうちにセネルも手伝ってくれて、お陰でどうにかルークの救出は大成功。苦しかった、と息を吐くルークを見て俺さまとセネルはへらりと顔を見合せて笑う。何て言うか、微笑ましい。とりあえずこのままルークに持たせておいたらまた同じことをやらかしそうなので俺さまも2つ持ちお手伝い。え、意外?今日はそんな気分なんだよ。てかこの網何に使うんだと疑問に思っていると、どこから持ってきたのかセネルが小型のボートに網を積み始める。何?何すんの?状況を呑み込めなくて網を持ったまま動かない俺さまを見てセネルが可笑しそうに笑い、「一緒に来るか?」と手を伸ばしてきた。この暑い中日陰からでるのは躊躇われたけど、まあ偶には良いかとその手を取る。すると後ろからルークも網を抱えて乗り込んできて、傍から見れば海賊ごっこでもする子供達みたいな感じ。俺さまそんな田舎者みたいな遊び好きじゃないんだけどなあ。


「……で、結局こんな大量の網持って海出て何するわけ?漁とか言い出すなよ」


「分かってるなら聞くなよ」


「魚たくさん取れると良いなー」


へらへらと笑って適当に言った言葉を肯定されて、ルークの魚発言からその網は魚捕獲の道具だと言うことが分かった。え、今まで魚料理ってこんなことして仕入れてたわけ?何それ、市場で購入とかと思ってた。俺さまの考えを読んだのか、隣からセネルが「節約だ」と的確な答えをくれた。あ、なるほどな。そういや最近でっかい任務が少ないからガルド稼ぎも楽じゃないからな。しかもどれだけ任務が減ったところでメンバーは増えることはあれど減ることは無い。食欲旺盛な奴等もわんさかいる。…結構ピンチなのかもしんねーな。
「ルークくんもこういうの興味あんの?」「興味あるっていうか、見てて面白いからさ。セネル一人じゃあの網全部持つの大変だろうし」「偉いねえ」そんな雑談してる内にボートは海の真ん中辺りに到着。俺さまこういう漁業っぽいの全然詳しくないから良く分かんねーけど、目印の浮きってやつもぷかぷかと浮いている。3人で1つ網を持ち、せーので勢い良く海に投げ入れる。というかこういうのは野生っぽいリッドとか、力持ちなコングマンとかもっと向いてる奴がいると思う。まあ確実に分かるのは俺さま向きではないと言うこと。帰ったらシャワーでも浴びた方が良いかも知れない。なんかちょっと塩臭いし。


ボートに乗せていた網全てを投げ終えて、3人同時に息を吐く。流石に疲れた。次からはもっと人を増やすべきだと思う。額に張り付くバンダナが何だかすこし不快でしゅるりと解けば、何故かセネルが俺さまの方を向いて顔を赤く染めているものだから首を傾げれば、可笑しい程不自然に視線を外されてしまった。え、何だよそれ、ちょっと酷いんじゃねーの?という小さなもやもやがあったけど、それよりもセネルは普段言いたいことをはっきり口にするタイプなのに珍しいこともあるもんだと俺さまはまた首を傾げた。変なセネルくーん。


大きな波に見舞われること無く陸に戻り、ボートから降りる。なんか楽しかったけど呆気なかったと言うか、いや別にそれで良いんだろうけど、ちょっと足りない感じ。何だこれ、と内心考えていると、不意に水飛沫が上がり俺さまの髪を濡らした。驚いて後ろを振り返ると、ズボンが濡れるのなんてお構いなしに海の中に立って、してやったりと言わんばかりに笑顔を浮かべるルークの姿。にやにやにやにや。ほほう、俺さまに不意打ちしようなんて良い度胸じゃないのルークくん?俺はもう知らんとも言いたげなセネルの腕を取りそのまま海の中にざぱざぱと進んでいく。「何なんだ!」とちょっと怒るセネルに向かってルークと同時に水を掛ける。2人からの同時攻撃はセネルの上半身を見事に濡らし、ぽたぽたと水滴を落とす。「水も滴るイイ男じゃねーのセネルくんてば」なんて冗談を言って笑ってやれば、どこからか聞こえてくる神経の切れる音。


「良い度胸だなお前達!これでも喰らえっ!」


ぱしゃんっ、と水音がして顔を濡らす。それをきっかけに男3人のむさ苦しい水の掛け合いが始まった。多分傍から見たら痛すぎる光景だと思うけど、俺さま自身楽しいとか思っちゃったりしてるわけでそんなの気にならないんだよな。ほんと、テンション上がった時の人って何にも気にならなくなるんだから怖いわ。白く清潔感溢れていたズボンは海の泥が付いて薄汚れて、今は見えないけど靴だってドロドロになってるに違いないのに、不快だとは思わなくて。俺さまってば実は田舎者な遊びが向いてたりするわけ?その時、顔面に水が掛かる。セネルが「余所見厳禁だ」と不敵に笑ってきた。おうおう、言ってくれるじゃねえの。「ご忠告ありがとさん」にやりと笑顔を返してやり、水を掛け返してやった。ルークもまるで子供のようにはしゃいで、その笑顔を見ていると自分達が戦いに身を置いていることすら忘れてしまいそうなほどに心が落ち着いていく。この何でもない時間が、愛おしくて堪らない。


遠くから声がして、何人かのメンバーがこっちに向かってくる。きっとあいつ等も海で涼みに来たのだろう。ルークがおーい、と手を振って、仲間の方に駆けていく。ちらりとセネルを見れば、どこか満足したように微笑んでいる。それはいつもの少し大人びた笑い方じゃなくて、年相応の少年らしい笑い方。何だ、そっちの方がよっぽど良いじゃん。


「なあセネル、また俺さまも着いて行って良い?」


「……随分疲れた顔してたように見えたが?」


おお何だ、結構俺さまのこと見てたのね。ん、そう言えばボートに乗ってるとき俺さまの顔見て火照ってたっけ?軽く流しはしたもののやっぱり気になるかもしれない。「何でボート乗ってるとき俺さまの顔見て照れたわけ?」質問を質問で返されて、それをまた質問で返す。一向に進まない会話だけど、気になるのだから仕方が無い。その質問を聞いたセネルはまた同じように顔を赤くして、「何でも無い!」と叫んで海から上がってしまった。何だそれ、俺さま納得出来ないって!


「おーい、セネルくーん!」


「何でも無いって言ってるだろ!」


俺さまとセネルの追いかけっこが始まったのは言うまでも無い。ちなみに、色々ふっきれたセネルに「髪を下ろしたお前に見惚れてたんだ!」と思いもよらない告白を受けたのが5分30秒後のこと。




thanks! wizzy



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