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□傷つけてもよろしいですか
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※黒イドくん。微破廉恥!





愛してるかと聞かれればまあそうなんだろうけど、大切にしたいかと聞かれれば決してそうじゃないわけで。矛盾してる?けど本当に俺の心はこう思ってるんだよ。愛してるし傍にいて欲しいけど、別に壊れものを扱うように大切にそっと触れたいわけじゃない。可笑しいよな。普通、好きな奴は大切にしたいと思うものなのに。でも俺は普通じゃないからこれで良いんだと思う。世界から見たら異物な存在なんだろうな。偽善的な考えをずっと持って、それを実現させようとして。自分でも相当な理想主義者だってことは分かってるんだぜ?優しいとは思わないけど。


「なあ、壊したいって言ったらどうする?」


相変わらず抵抗も無く俺の手を擦り抜ける赤毛に、今朝顔を洗った時に川から掬い上げた水を思い出す。あの時もこんな風にさらさらとしていたような気がする。何の抵抗も無く、為すがまま(水が抵抗する筈は無いけれど、こう、客観的に見てさ)。そういうの嫌いなんだよな。自分の意思とか投げ出して無気力にそこにいるだけっていうの。じゃあ何の為にそこにいて、何の為に生きてるんだって叫びたくなる。まあこの考えは人間限定に通用するものであって自然や物にとって見れば無茶苦茶な考えでしかないけどな。


明りの無い真っ暗な部屋で、白いシーツに横たわるこいつだけがぼんやりと浮いているように見える。真っ赤な薔薇を敷き詰めた上に無防備に青を晒して、食べてくれとでも言ってるかのよう。だから遠慮無しに白い喉笛に噛み付けば痛みからか快楽からかびくりと四肢が震えて女の子のような甘い声が漏れた。そうやって俺無しでは生きていけないようになればいいんだ。言っただろ?目的無く呼吸をしているだけの奴は嫌だって。だから俺が理由をあげる。水無しでは生きていけない可愛い金魚のように、俺がいないと呼吸出来なくなればいいよ。必死に俺を求める姿は、きっと今以上に淫らで綺麗だろうな。
嗚呼もちろんお前に拒否権は無いよ。だって、先に手を伸ばして来たのはお前の方なんだから。それはつまり俺に助けて欲しかったと言うことだろ?だから助けてやるよ、俺がお前に生きる理由をあげる。ほら俺って「優しい」って周りの皆から言われてるからさ、そんな風に振る舞ってやらないと言ってくれてる皆に申し訳ないだろ?「優しい」ロイド。「太陽みたい」なロイド。「真っ直ぐ」なロイド。何て過大評価だろう。俺がそんな人間に見えるだなんて、皆揃って人の性格を良いように取るのが上手だよな。いや、褒めてくれてる人に対してそれは失礼か。ごめんな、俺、「素直」だからさ。


「そんなことロイドくんはしないだろ。壊したら、綺麗な玩具が減っちゃうし?」


「…失礼だな。俺はお前のことそんな風に思ってないよ。ちゃんと愛してる」


まあ、30点ってとこだな。俺がこいつを壊す筈が無いと分かってるのと、綺麗ってところで30点。冷え切っている俺のベッドの上に投げ出されている剣が意思を持って自己主張するかのように鈍く光る。悪いけど、お前の出番じゃないよ。残りは俺がこいつのことを玩具として見ていると思っていたところでマイナス70点。それこそ有り得ない。俺は玩具だと思ってる相手に欲情したりもしないし、絶対に抱いたりしない。そんな腐りきった関係そもそも要らない。興味もない。俺が欲しいのは、いつだってゼロスだけ。
くすくすと可笑しそうな声が聞こえて、それに合わせて体が上下に軽く揺れる。ふわりふわりと白いシーツを舞う赤は心を惹きつけるような魅力があるけれど、理由も分からずにこんな風に笑われるのははっきり言って気持ち良いものじゃない。大抵の人間の考えていることは分かってるつもりの俺だけど、こいつだけは何をするのか、何を言うのか想像出来ない時がある。きっとそんなところに俺は惹かれたんだろうけどな。ほら、本とか読んでてもさ、展開が分かってるの読んだってつまらないだけだろ?それと同じ。あ、誤解の無いように言っとくけど、俺は別に珍しいからとか言う理由でこいつを好きな訳じゃないから。


「分かってるって」ちょっと馬鹿にしたような声音でそう言ってきて俺の頬に触れる手はひんやりと冷たい。まるで、こいつのトラウマである雪の中に埋もれていたかのよう。俺よりこいつの方がずっと危ないんだよ。俺は絶対に自分から生を放棄したりしない。けど、こいつはいとも簡単に手放そうとする。それはとても愚かな行為。どれだけ醜悪で欲に溺れている世界でも、その中で人は生きていけると言うのに。一人が心細くて不安でしょうがないのなら俺に縋れば良い。今はもう心を許してくれてるらしいけど、初めて会った時は本当に懐く前の猫みたい威嚇されまくって何度捕まえようとしても逃げられてばかりだった。で、とうとう堪忍袋の緒が切れたっていうか、自分でも抑えきれなくて感情が爆発した。
ちょっと人道的な方法じゃないけど、今思ったらさっさとああしておけば良かったのかもしれない。そう、俺は感情を爆発させて丁度今の状況みたいにこいつの体をベッドに縫い付けて、「俺」を見せた。うすうすこいつが「俺」に気付いていたことを知っていたから別にばらしても良いかって思ってたし。あの時の揺れる瞳は今でも覚えてる。俺の手を取って良いのか迷って、信じるのが怖くて、でも一人でいるのにはもう心がズタズタで。俺は割と精神的ダメージには強い方だけど(というよりも、無関心?)こいつは真逆。だからこそあれほど人間を信じることを拒んだと思う。母親の言葉が楔のように絡み付いてきて、もがけばもがくほど強く自分を縛る。誰よりも想っていた人だからこそ、悲しくて、痛い鎖。


俺は神サマじゃない。だからきっとこいつの息が詰まりそうな想いの全てを昇華させてやることは出来ないと思う。だけど俺はお前に助けてやると言った。だからその言葉は守るよ。お前がまた傷付いて涙も声も枯れたと言うのなら、俺が代わりに泣いて、叫んでやるよ。これはどれだけ偉い神サマにも出来ないことだろう?お前を愛してる、皆に自分を隠し続けている嘘つきな俺の、数少ない本当。


ガラスのように鋭利で、脆いお前。誰にも触れられないように、触れさせないように生きてきたんだろう?嗚呼そうか、だからその分俺はお前に触れたいし触れて欲しいんだ。滅茶苦茶強く抱き締めて、深くキスをして、俺の体を刻みつけて。今までの間を埋めるように激しく愛して。それこそお前がもう十分だと根を上げるほどに。歪んでいるというのならそれでも構わない。狂ってる?そうかもしれないな。きっと、もっと優しく柔らかくこいつを愛してやる方法はたくさんあるのにわざとそうしようとしないなんて、自分で言うのもあれだけど、性格悪いと思うよ。けど、まあこれが「優しく」て「真っ直ぐ」、何事も「諦めない」ロイド・アーヴィングという男だから。


さあ、お前の全部曝け出して、痛いくらいに愛させて?





thanks! h a z y




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