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□ぜんぶあなたがわるいんです
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「おーい、ゼロスー」

そのぼんやりとした声に俺さまの体は大袈裟なほどにびくりと跳ね上がり、今の今まで寝転がっていたソファから降りて出来るだけ音を立てないようにソファの座る部分を開けて中に入り込む。つまり、一見すれば誰もいないように見える上に、あいつがソファに座ろうものなら俺さまが静かにしている限りばれることは絶対に無い。まさかこの俺さまがソファの下に隠れこんでるなんてあいつも夢にも思わないだろうしな。全く何で俺さまがこんなことしてまで隠れないといけないんだか…、そう、一言に言ってしまえばあいつが可笑しいのが悪い。最初は確かにムカつくけどまあ常識のかけらぐらいは持ち合わせてる奴だと思っていたのに、いざ深い仲になってみればどうだ。え、いやいや勘違いしないでくれよハニー?深い仲って言っても別に口に出せないようなあれやこれをしたとかそういうんじゃなくて、単に親しくなったってことだからな。あんな奇人変人とだなんて俺さま絶対に御免だし。これ以上関わったら絶対にロクなことが無いのは目に見えているのだからこのままソファの中でひっそりと身を潜めているのが一番安心、最良。あ、何でここまであいつを避けて回ってるのかだったな。さっきも言った通りとんだ変人なんだよあいつ。まともなのは顔だけかっての!だって聞いてくれよそこ行くハニー。あいつ、朝起きて一番に会ったと思えば行き成り体引き寄せてきて有り得ないくらい密着してくるんだぜ?その時は寝惚けてんのかと思ったけど他の奴には絶対しようとはしなかったし。何なんだよ、俺さまへの嫌がらせ?人気者の色気はどうだっていいたいわけ?ムカつく奴…!

それだけじゃないだって!あいつ、よりにも寄って俺さまがメロンパフェ食ってた時もあろうことか残しておいたメロンを何の断りも無く平然と食ったんだぜ?どういう神経してるんだよ馬鹿野郎…!だから俺さまが仕返しとばかりにあいつのクレープ齧りついてやったら何を思ったのかキ、キキキス、してこようとしたんだぜ…っ?口の中のクレープを奪い返そうとしたってか?だからと言ってそんなこと普通にしないだろ…!な、あいつかなり変だと思わないハニー?!ああああいつもしかして俺さまのこと美味しいスイーツとでも見てるんじゃねえの!このままじゃいつか本当に食われちまう。頭からぱっくりと!あいつ甘党らしいけど絶対に肉食派だろ。狙った獲物は逃がさないって感じだろ?俺さま逃げ切れる自信ないんですけど…。もちろん食われるなんて御免だからこうやって必死に自己防衛に入って隠れているわけだけど。仕方ないけどかなり埃っぽいな…ああもうこんなことになってるのも全部あの変態の所為だ…!かつん、と靴音がして「ゼロスー?いないのかー?」と俺さまの神経を逆なでするような能天気な声が近付いてくる。何故か心臓がばくばく言ってる…ちょっと落ち着けよ俺さま…普通ソファの中に誰かいるなんて考え無いだろ…?わざわざこんなところ探したりしないだろ…?このままじっとしてれば良いんだって。大丈夫、気付く筈が無い、気付いたら普通じゃない。…普通じゃない?何言ってんの俺さま、あいつは普通じゃないじゃねーの、え、ちょっと待って、ごそ、と音がして少しずつ視界が明るくなっていく、タンマ、おい、止めろって、え、え、マジ?俺さまの視界に広がったのは、真珠のような真っ黒なあいつ。

「んだよ、こんなところにいたのか?」

何で気付くんだよおかしいだろ…!何してんだよこんなところで、と笑われながら腕を引っ張られてずるずると人形のようにソファの中から引き摺り出された俺さまは体の力が抜けて思わず床にぺたんと座りこんでしまった。ええもう何だよこの疲労感…やっぱこいつ変人だわ…こんなにあっさり見つけられないだろ普通…はっ、もしかしてあれか?!この部屋にはあいつが仕掛けた隠しカメラが設置されてたりするわけか…?ならこんなところにいそいそ隠れた俺さまってこいつにしてみればすっげえ間抜けに映ってるってことじゃねえの?!お、俺さまもう駄目だ…こんな訳分かんねー奴に見くびられるなんて我慢出来ない…。こいつに会わない生活を徹底してやる、あれだ、こいつの幼馴染とかいうあの真面目な金髪騎士くんにべったりしといてやる。あいつの弱点って騎士くんの減らない小言とか説教とかだろ?なら騎士くんといればあいつだってそう簡単に俺さまに変なこと出来ないだろうし?さっすが俺さまあったまいー!よし、明日からはその手でいくとして問題は今現在だな。ってか何で俺さまこんな必死になってるわけ?頭痛くなりそうなんですけど。というかこいつはまじでなんなんだよ、ここまでして俺さま探して一体何の用があるんだよ…。え、別にねえけど、とか言ったらジャッジメント行き決定だからなこの野郎…!

「別に用は無かったんだけど何かお前に会いたくなってな」

そう笑顔を言いきってぽかんと思考停止させた俺さまをぎゅうっと抱き締めてきた。お前…お前、俺さまが今思った瞬間に言いやがって…よっぽど俺さまのパーファクトな技を受けたいらしいな…!しかもだ、抱き締めるってのはどういうつまりだ。俺さまの体はプリティーなお嬢さんやセクシーなお姉さまのものであって野郎で変態のお前に貸してやる体は一つとしてないんですけど!あ、おいちょっと、苦しい離せ馬鹿!調子に乗んな!誰か来たら100%誤解されるだろこの状況!罷り間違ってあの陰険眼鏡なんかに見られてみろよ一生小間使いとして生きていく羽目になるぞ!「おい、変態…!ちょっと離せって…っ!」小さな声で、でもはっきりとそう言って意外としっかりとした肩を押し返そうとするけれど変態とは言え一応前衛なだけあって鍛えているらしく効果は無い。後ろは今まで俺さまの隠れていたソファ、前からは手加減なしに抱きつかれる、嗚呼もう俺さま逃げ場無しってか?「ゼロス、キスして良いか」おい、何言ってんだ、良いわけねえだろ。俺さまの唇はお前にやるほど安くねーんだよ。あの可愛いピンク髪のお嬢さんにでも言ってきたらいいじゃねえの、悔しいけどあの子はお前のこと好きだろ?あんな可愛い子放っといて俺さまに言い寄ってくるなんて大した度胸じゃねえの。ま、まあ俺さまの美貌が罪っていうのは確かに分からないことは無い、でもだからと言って俺さまがお前とキスするのはおかしだろ!「……?!お、おい、近い、俺さましていいなんて…!」急に近付いてきた整った顔を避けきることが出来なくて、そのまま柔らかいものが唇に触れた。

「はは、ゼロスの唇頂きってか?」

「……っ、ば、ばっかじゃねーの!変態!キス魔!アホユーリ!」

ああああこいつ何なんだ!お、俺さま、こんなに軽々しくキスされたの生まれて初めてだぜアホユーリ…!信じられない、どこの通り魔だこいつ。こいつと一対一のガチンコ勝負してぼこぼこにしてやりたい。ムカつく。有り得ない。何で俺さま?何で俺さまがこんな目に会ってるわけ?誰がしていいって言ったよ?少なくても俺さまじゃねえだろそれ。ぐるぐるぐる色んな想いが頭の中に渦巻く。今日からこいつのことエローウェルって呼んでやる。もしくは快楽犯。嗚呼もうまだ唇に感触が残ってやがる、思い出してきて涙腺まで緩んできやがった。嗚呼もう畜生。冗談じゃない!「おいおい、泣くほど気持ち良かったか?何ならもう一回してやってもいいぜ?」どこからその自信湧いてくるんだよ、俺さまお前の突拍子の無い思考回路に吃驚だわ。分かった、お前きっと頭のネジが5本くらいどっかに飛んでいったんだろ、なら仕方ない。うん、仕方ないよな、そんなお前にキスされたから俺さまのネジも多分10本近くは飛んでいってしまったんだろう。だから、きっと仕方ないんだこの感情も、全部。じゃないと可笑しいだろ?もう一回、して欲しいと思うなんて!


ぜんぶあなたがわるいんです


(心臓がうるさいのも、お前に好きって言っちゃいそうなのも、全部!)


thanks! wizzy




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