短い


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君が言った、
総悟

理解困難
総悟

死刑宣告
歳三

飴玉
十四郎

ひとさしゆびで約束


すぐ傍にある庭の、さらさらと、さらさらと風に流されていく小石や砂に目をやって、暇だ暇だと独り言を呟いて畳の上に足を投げ出して、居た。真選組を尋ねて、此の部屋に通されたまでは良かったのだけれど、仕事なのかどうなのか知らないが全く目的のひとは来ない。あの人のことだから、きっと何処かで遊んでいるんじゃなかろうか、と思ったのは当面の秘密である。なにをされるか分かったものじゃないから。ああ、もう、なんか眠いや。


「客だと言われてきてみりゃあ、奈央じゃねえかィ」これまた唐突に現れたのは、沖田総悟その人で。襖の空いた音さえしなかった気がしたのは、私の注意が逸らされていたからか、それとも故意に、か。故意になら少し怖いなあ、なんて思いながらも私は今にも閉じられ寝そうだった目を擦りながら、用件を口にする。


「・・・遅い。これ繕って持って来い、って押し付けたのはあんたでしょ?」
「そうだった気もしなくもねえなァ」
「昔馴染みだからって、私はあんたの小間使いでも何でもないんだから!」


たたき付ける様に、あちらこちらが破れてしまっていたのを直した服を、投げた。片手で、いとも簡単に受け取られてすこし虚しい。それを手にしたまま、総悟は私の真正面に座る。また新しい繕い物頼む気じゃなかろうな。と身構えたけど、ただ服の縫い目を確認しただけだった。何処の小姑だよ。


「しょうがねえだろ、お前に頼むのが最良の手段なんでィ。金かからねえし」
「それ、私にとっちゃ最悪の選択よ」
「それは良かった」
「何が」


喋ってるの馬鹿馬鹿しくなってきた。もうやだ、こいつ。思い出して苛々してきたことをつらつらと呟く。洗濯されてすらなかったから血みたいなのこびりついてたし、だから洗わなきゃならなかったし、やたらに繕わなきゃいけない箇所多いし、ほんっとうに疲れたんだから!一息にそう言ってみても、総悟の視線はまだ自分の服に向かったままだ。聞いてないよね、これ。ちょっとぐらい聞けよ。ねぎらおうよ。そう思って、私はまだ言葉を続ける。無意味な気もするけど。


「母さんにも父さんにもなんか、生暖かい目で見られるし、今日は土方さんにまでからかわれるし・・・!」
「いいじゃねえか、俺と奈央との仲だろィ?」
「皆して!そんなんじゃないって言ってるのに、って・・・え、」
「ご主人様と召し使い「に、二度とその顔見せるな馬鹿!」


い、意味わかんない!こんな反応が欲しかったんじゃない!どんだけ総悟がサディストだろうと、私はそんなマゾヒストでも無ければ、縫い物好きだからいつでも言ってね、なんて優しい女の子みたいに可愛らしく言える気性じゃないんだから。お礼の言葉の一つもないし。腹が立ってきたから無言で立ちあがって、さっさと帰ろうと歩きだそうとした。のに、直ぐさま、それは止められることになる。「次の日曜、予定開けときなせェ、奈央」飴と鞭のつもりなのか。どっか連れてってやりまさァ、と後に続いた言葉。思いがけない報酬に、イエスと言葉を返すのは癪だったから、代わりにデコピンを食らわして、ばか、と呟いて出ていってやった。真意は受け取られているのだろうか。多分、大丈夫。(なんて、思い上がりかなぁ)少しでも楽しみに思ったなんて、きっと何かの間違いだ。

私達に、秋の空は青すぎる。襖の向こうで小さく楽しそうな笑い声がしたのを聞いた。おさまれ体温。



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