MY小説

□家出少女の行方
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 時計の長針が午前0時を指したと同時に、女は家を出た。
 予め用意しておいたボストンバックを持ち、家に向かって頭を下げると駅に向かって足を急がせた。
 沢谷華花、人生初の挑戦だった。
        * *
「華花、いつまで寝てるの?」
 華花がいつまで経っても起きて来ない事を不審に思った母親の千鶴は、華花の部屋の扉をノックした。
 しかし、応答はない。
「華花!!いい加減に起きなさい!!」
 千鶴が部屋に入ると、もうそこには華花の姿はなかった。
「華花・・・?」
 勉強机には華花が書いた物と思われる手紙が置いてあった。
【お父さん、お母さんへ
今までありがとう。なんで私が家を出たのかは、お母さんが理由です。でも、勘違いしないで!私はお母さんが大好きです。ただ、お母さんの理想の子供を貫くのに疲れただけ。お父さんもお母さんも、こんな身勝手な娘を持って恥ずかしいと思うけど、これは私の最後の我侭です。どうか、探さないで下さい。時々、手紙を送ります。お金は心配しないで。アルバイトして、稼いでいくから。最後に、二度と家には帰りません。            華花】
 千鶴は手紙を読み終えると、顔を真っ青にして夫の光一に駆け寄った。
「光一さん!どうしよう!?華花が…」
「千鶴?顔が真っ青だぞ。大丈夫か?」
「華花が…」
「華花がどうかしたか?」
「家出したのよ!部屋に、手紙が・・・」
 光一は手紙を受け取り、声に出して読み始めた。
「今までありがとう。なんで私が家を出たのかは、お母さんが理由です。でも、勘違いしないで!私はお母さんが大好きです。ただ、お母さんの理想の子供を貫くのに疲れただけ。お父さんもお母さんも、こんな身勝手な娘を持って恥ずかしいと思うけど、これは私の最後の我侭です。どうか、探さないで下さい。時々、手紙を送ります。お金は心配しないで。アルバイトして稼いでいくから。最後に、二度と家には帰りません・・・??どういう事だ、千鶴!」
「私にも分からないわ!!華花には、社会に出ても恥ずかしくないように教養していただけよ。なのに・・・なんで家出なの?」
「とにかく、ここで混乱していても、華花は見つからない。警察に行って、届けを出そう。」
「そうね・・・、そうしましょう」
        * *
「華花、もう朝だよ」
 その日、華花は従姉の櫻子の家に泊まっていた。
「ん・・・?」
「随分疲れてるみたいだから、まだ寝てていいわよ。」
「…ううん、起きる。ゴメンね、櫻お姉ちゃんに迷惑かけるつもりはなかったんだけど・・・」
「迷惑だなんて、とんでもないわ!私のお母さん、華花の家族と仲悪いから、ここは安全よ。それに、一人暮らしだからなお安全!!安心して、いつまでも居てね」
「ありがとう・・・」
 櫻子の母親、柚子は光一と千鶴と仲が悪かった。
 そこを利用して、華花は櫻子を頼っていた。
「あ、洋服とか私のお下がりならあげるわよ!バイトとかなら、私が今働いてるところで店長に頼んであげる。華花は安心して、料理と掃除だけしてくれれば・・・」
「そこまで華花にやらすとは何事なの、櫻子!!」
 櫻子の頭にゲンコツを見舞ったのは、柚子だった。
「いったぁい!!なんでお母さんここに居るのよ!?」
「悪かったわね(怒)それより、姉さんも酷いったら!華花、あんな家に居ないで、いつまでもここに住めばいいわ」
「ありがとうございます、叔母ちゃん」
        * *
 華花が家を出てから一週間、警察からは何の音沙汰もなかった。
「なんでなの、華花・・・」
「友達とかには連絡したのか?」
「連絡したわ。でも、誰も知らない、って・・・」
 学校の友人、身内などには電話をかけた。だが、皆同じ応答だった。
「柚子ちゃんの家には?」
「柚子とはもう縁を切ってるのよ!それに、華花は柚子の家は知らないわ。櫻ちゃんも、自立したらしいし・・・」
 もちろん、千鶴は柚子と縁を切っているから年賀状や贈り物などは一切来ない。まして、櫻子と華花が手紙のやりとりをしていたなんて、夢にも思わないだろう。
「手紙の他に何か残していたものはないのか?」
「探したけど、なかったわ。やっぱり、私がいけなかったのかしら?華花のためを思って、教養していたのに・・・」
「千鶴のせいだけじゃない。僕も華花の事は千鶴にまかせっきりだった。華花の事より、仕事を優先していた僕にも問題があると思うよ・・・」
        * *
「華花じゃない!?」
 街中で櫻子と一緒に買い物をしていた華花に、声をかけた人物が居た。
「やっぱり華花だ!皆心配してるよ、学校に全然来ないから〜」
 その人物は、華花の一番の理解者、吉沢加奈子。
「・・・加奈子?」
「久しぶり!!どうしたのよ、一体」
「あ、私お邪魔だね。華花、先家帰ってるから、お茶でもしておいで」
 櫻子は気をきかせて一足先に家に戻り、華花と加奈子は喫茶店に入った。
「・・・ふーん。じゃあ、家出してるの?」
「うん。心配かけてごめんね」
「そうならそうと、早く連絡してくれればいいのに。ま、そこが華花らしいけど♪」
「加奈子はなんでこんなとこに居るの?」
「おばあちゃんの家に来てんの。今、家がちょっとヤバくてさ。だから、避難中」
 加奈子の家は、父親が暴力を振るうようになって母親が家を出て行ってしまった。母親が家を出て行ってしまってから、暴力の矛先は加奈子や幼稚園の弟の潤に向けられるようになり、加奈子は潤を連れ祖母の家に避難していた。
「おばあちゃんの家にはお母さんも居るし、離婚さえ成立すれば、また向こうに戻るつもり」
「そう・・・。でも、加奈子が近くに居るから、寂しくないかな」
「可愛い事言うねぇ!このこの〜ッ」
「あはは、やめてよぉ〜!」
 そんな二人を見ている人物が居た。
        * *
「じゃあね、加奈子」
「また何かあったら言って。助けるからさ♪」
「うん」
 加奈子と別れた後、華花は櫻子の家へと足を運んでいた。
「あの・・・沢谷華花さんですよね?」
 急に、知らない男に声をかけられた。
「そうですけど…。私に何か?」
「実は私、こういう者でして・・・」
 男は名詞を差し出す。
「吉田衛・・・?探偵事務所・・・?」
「はい。華花さんは家出してるんですよね。先日、華花さんの両親から捜索願いが出されてて…。あ、僕にじゃないですよ。警察にです。あ、誤解しないで下さい。両親の方に言うつもりはないですから。ただ、お願いがあるんです」
「お願い・・・?」

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