ハピバ小説
□ヘッポコ丸&田楽マン
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季節が移り変わっていくこの時期。
今年の冬は例年よりも寒く、手袋を着けた手にハァーと息を吐けば、それは白くなって空気中に溶けた。
手袋を着けているといっても指先は冷えるのだ。
マフラーに少し顔を埋めて、オレは薄く雪の積もった街中をさくさくと音を立てながら歩いていた。
肩に自称犬を名乗る生き物を乗せて。
「今日はきっとご馳走なのら〜!」
「そうだなー」
「何だよ〜嬉しくないのかよ〜」
「別にそういうワケじゃないけど……」
みんなに出掛けてこいと言われたときは何事かと思ったが、この生き物が騒いだせいで、その理由を理解するのに大して時間はかからなかった。
お前のせいでサプライズの喜びが半減した。
そう言ってやると、田楽マンは拗ねたような表情をして、オレのマフラーの中にもぞもぞと潜り込んできた。
首の辺りがくすぐったい。
「何で入ってくんだよ」
「だって寒いのら」
「お前もマフラー巻いてんだろ」
「コート着てくるの忘れた」
「…………」
いつも着てないクセに。
コイツが騒いだおかげで半ば強引に追い出されたオレは、財布も何も持ってきていない。
辺りも暗くなっていて、昼間から外にいたオレにとって、時間を潰すのは難しくなってきていた。
「…帰るか」
「じゃあさっさと帰ろうぜ〜寒い」
「肩に乗ってるだけなんだから命令すんな」
ビュティは何で文句1つ言わず、コイツを肩に乗せているんだろうか。
疑問に思ったが、マフラーから顔を出したコイツの頭をガシガシと乱暴に撫でてやったら、思いの外温かくて手触りも良かった。
あ、ちょっと気持ちわかったかも。
当の本人は若干嫌そうな顔をしていたけれど。
ホテルに戻ろうと、くるりと向きを変えて先程までとは逆方向へと歩き出す。
他愛のない会話でもして帰ろうかと考えていたオレに、田楽マンが不意に口を開いた。
「ヘッポコ丸は嬉しくないのら?」
「何が?」
「誕生日を祝ってもらうこと」
そう、今日はオレの年に1度の誕生日。
オレが生まれた日。
嬉しくないのではなくて、ただ単にあんな追い出され方をしたから気分が乗らないだけだ。
そう見えるなら、原因はコイツ。
そんなオレの考えを遮るかのように、田楽マンは言葉を続けた。
「オレは嬉しいのら」
いきなり何なんだコイツ。
そんなオレの考えを余所に、田楽マンは半分マフラーに顔を隠しながら補足するかの如く話を進めていく。
「オレには今まで祝ってくれる友達がいなかった…だから誕生日にみんなで一緒にいれることが嬉しいんだ」
…コイツ、こんなことを考えてたのか。
何だかしんみりしてしまったじゃないか。
「…誕生日を祝ってもらえるのは、そりゃあ…オレだって嬉しいよ」
言葉に詰まったオレは、さっきの疑問に返答することにした。
改めて口に出すとこんなにも恥ずかしいものなのか。
どうしていいのかわからなかったから、今度は優しく、田楽マンの頭を撫でてやった。
田楽マンは気持ち良かったのか、満足そうに微笑んだ。
なんだか完全に調子が狂ってしまったオレは、「お前の誕生日は今日じゃないけどな」とだけ皮肉を言う。
それでも田楽マンは楽しそうに、「うるせー」とだけ返した。