Nostalgic Fantasy

□死神と携帯電話
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ゆっくりと





ゆっくりと意識が遠ざかる






空腹と寒さで体は動かない





『お母さんはどこだろう』



土に塗れて横たわったまま、ゆっくりと小さな瞳を閉じた




最後に残る力を振り絞って出たのは「ミァア」と母を呼ぶ一声だけ





冷たい地面に寝転がりながら、一つの物語が終焉を迎えた





最後の鼓動がその役目を終えた時、真っ暗で寒かった世界が途端に暖かく明るく光に包まれてる





ふわりと体を包む光に導かれて、降り注ぐ光の中空へと昇り始めた





『お母さんみたいに暖かい温もりだ』




ゆっくりと暖かい光の中を昇りながら、土で汚れた黒毛の小さな自分を見下す





大きすぎる地球の上では、それは余りにちっぽけな存在





突然強く暖かい光と共に、優しい声がこだまする





「そう……そのまま…迷わないように」





優しく頭を撫でられているような声で行き先を教えられる





心地よい眠気を感じながら、ゆっくりとゆっくりと昇っていく






だがそれは突然訪れた





喉元を握り潰され、皮膚を剥ぎ落とされた様な感覚





全身わし掴みにされて急速に地に引きずり落とされていく





『寒いよ。痛いよ。怖いよ』





声に出せない悲鳴を上げて、地に横たわるちっぽけな体に引きずり戻された






目を開くとそこには枯れた草花を手に持った一人のニンゲンがこっちを見ていた





起きる気力のない寒く冷たい体に空腹が再び押し寄せる





だけどいつもと変わらない冷たい空気が、今はとてもおいしく感じられた














永久の眠りを迎えた全ての者達へ





追憶の物語を
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