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□第一章『BLOODY WOLF』編
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古ぼけた匂いのテーブルに突っ伏す俺の心配をよそに、当の二人は意気揚々と支度をしている




この小悪魔はつい最近ハンターになったらしく、『基礎から教えて欲しい』といった感じで付き纏ってきた





ミルベッシュのHR6、フランツ=バルツーイ




確かに俺はある程度有名なハンターだった




いや、昔はもっと名の有るハンターだが、それは偽りに塗りか固められた過去




前髪をかき揚げ、無機質に周る天井吊された空調を眺める





「狩りは一人で……あの時そう誓ったんだけどな…」




つぶやく様に言ってみるが、周囲はすでにいつもの騒音を発している




ゆっくりと立ち上がり見慣れた室内を目を向けた





いつものギルド嬢




いつも酒を飲み騒ぎ立てるハンター達




いつも観葉植物に囲まれた室内の隅でテーブルに足を投げだし眠るハンター




そんな平凡な日常が、こんな子供に崩されるとは思わなかった





「フランツさん、クエスト用紙出しておきましたよ」




そのテイルの声に、考え込んでいた俺は現実に引き戻された





「そうか……。それで何のクエストだ?」




キノコ狩り



薬草調達




ファンゴ討伐





頭には懐かしいクエストが浮かんでは消える





だがそんな俺の想像は、脆くも崩れさった





「空の王者リオレウスの討伐よ」





さらっと言ったリンのその言葉を理解するのに俺は大分時間がかかった





「いやいやいや。…………いやいやいや、何言ってる。リオレウス討伐に行けるやつなんてこの街でも数える程しかいない。
第一ハンター成り立てのお前達が受注できたんだ?」




その俺の問いに姉リンはピースを、弟テイルは頭を下げた




「『フランツって人に頼まれました〜』って言ったら受注できたわよ」




「ごめんなさいフランツさん、止めたんですけど……」





だが二人の声は俺の耳に入らない





右から左に抜けた言葉は行き場を失い、そこらへんをさ迷う





「じゃあフランツさん、早く行きましょうか?」





この、時々お嬢様言葉を使う小悪魔リンと僕のテイルは俺の知ってる常識を全て覆した






姉弟に両腕を引っ張られながらギルドを出る間際、俺は逝かれた思考の中で最低限の質問をした





「二人の使う武器はなんだ?」





俺は自分の背中の愛刀に軽く触れ、口を開いた




「俺は見ての通り太刀だ。まぁリンはハンマーなのはわかったが、テイルは何を使うんだ?」





「僕はボウガン『M16A2』です」





そう言ってテイルは黒く細身のボウガンを取り出す





見た事のない作りと材質のそのボウガンに俺は堪らずテイルに問いただした





「これは……本当にボウガンか?」




正直、こんな異様なボウガンを見るのは2度目だった





「まぁ……対人用のライトボウガンです。ですけどモンスターにも十分対応できる威力ですから」




どうやら俺の記憶にあるあの化け物じみたボウガンとは何の関係もなさそうだ




「だがそんなものどこで…?」




俺の質問にテイルは少し考え込む様に首を傾げ、口を開いた





「父から譲り受けました。それ以外はわかりません」





「そうなのか……。不思議なボウガンだな」




「……そんなのいいから早く行くわよ!!!」




どうやらリンの我慢が限界に達したようだ





ここは大人しく従ってクエストに行くしかないみたいだな……





そこで俺はようやく状況を理解した





「はっ?リオレウス!?」




だが時すでに遅し





リンとテイルに背中を押され、俺達はアプトノスが引く竜車へと乗り込んだ




青空照らす太陽の光は、消える気配を見せてない




従者アイルーの手綱と共に進み出す竜車








森丘へと目指して
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