メイン小説

□ヴァンツの物語
2ページ/44ページ

あの日、俺達12ナイツは休暇中だった。
だが突然ドンドルマの最高責任者、大長老から12ナイツのトップ3に集合がかかった。



街で悪行の数々を繰り返し、民衆やギルドの悩みの種となっていた犯罪者グループ、その中で一際大きな勢力を誇る「リヴェリオン」。




奴らを隠密に始末せよとの任務が下った。




対人戦では無敵を誇るギルドナイトの精鋭部隊、12ナイツのトップ3人が揃っていたんだ。
奴らを全滅させるには5分で十分だった。



「ふぅ…ざっと200人ってとこか…。数は多かったが、所詮は素人。楽な仕事だったな?」



当時、俺の相棒だったバージルはそうぼやいた。



腕の立つ男で、頭もキレる実力派だった。



バージルの振るう刀、「鵺魔刀(ヤマト)」の前には、何人たりとも立っていることを許されない。



「あぁ…統率もなってねーし、毎日地獄の特訓を受けている俺達には敵うはずもないさ。」



そう言いながら俺は、愛剣アラストルに付着した血を拭い、腰に提げた鞘に納める。



「ちょっと2人とも!大長老直々に下命された大事な任務なんだから、文句なんて言わないの!」



2人を叱責するのは、12ナイツの紅一点。
彼女の名はエルメリア。



例えるならば…磨き抜かれた白水晶の輝きよりも美しく、才知に富み、武芸にも秀でており、勝ち気で面倒見が良く、誰からも慕われた…そんな女性だ。



「おいおい、お前の恋人はいつからこんな小言を言うようになったんだ?」



苦笑しながらバージルがこちらを見やる。



奴の言った通り、俺とエルメリアの関係は恋人同士。



話せば長くなるが……きっかけは彼女が12ナイツに昇進したとき、12ナイツの掟やら礼儀作法やらを教える役目を負ったのが俺だった…という事だ。



立場上、2人で街をゆっくり歩いたりすることはできないが…こうして共に任務に当たることで、色々な物を見たり経験することができた。



必ずバージルが同じ任務につくのは、俺達が任務を途中ですっぽかしたりする事がないように…という懸念からだろう。



しかしさっきのエルメリアの叱責を聞けばわかるが、そんな心配は全くない。



「ハハハ…最初のうちは任務のたびにオロオロして、まともに剣も振れずに俺の背中に隠れていたんだがなぁ…エルメリアも偉くなったもんだぜ。」



「なっ…ちょっとヴァンツ!そんな昔のこと、なにも今思い出さなくてもいいじゃないの!あの頃はまだ任務に慣れてなかったから少し緊張してただけよ!」



ちょっとからかってやると、顔を赤くして必死に反論してくる姿がまたかわいらしい。
…本気で怒らせると命に関わるが。



今の彼女は、戦闘となると細身の双剣を手に舞い踊るように敵を倒す。
その戦い方はまさに芸術とまで呼ばれ、「死を運ぶ艶姫」という通り名までついた。



「わかったわかった、冗談だよ。
ん…?あんなところに箱が…?」



怒るエルメリアを適当にあしらった俺の視界に入ったのは、組織との戦闘で崩れた壁の中に隠されていた…いくらか長めの箱だった。



「なぜこんな所に隠されているんだ……バージル、少し手を貸してくれ。」



「おう。…もし中身が金銀財宝だったら、3人で山分けだよな?」



冗談を飛ばしながらバージルがこちらに歩み寄り、2人で崩れた壁から箱を引き抜く。



箱は意外と重く、上からみて長方形の蓋の各頂点に銀を使った彫刻が施されている。




「……あんな場所に隠されていたんだ。ワケありの品だろうな。」



箱が放つ異様なオーラに、思わず俺は呟いた。



「…とりあえず、大長老の元へ持って行ったほうが良さそうじゃない?」



エルメリアも不安そうに近づいてくる。



「うむ、大長老なら何か知っているかもしれん。ここまで強い波動を放つ物だ…王立書士隊が著した記録に載っているかもな。」



言いながらバージルは箱を担ぎ、組織のアジトの出口へと向かった。



俺とエルメリアも後を続く。






…まさにあの箱が、俺達の運命を狂わせた元凶だった…。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ