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□『知る者と知らざる者』
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ガブラスの大襲来から一夜明けたミルベッシュ。
人々は興奮覚めやらぬまま、被害の大きさやハンターの戦いぶりを話題に大騒ぎしていた。
クシャルダオラの王と一戦交えたヴァンツとエルメリアは、今朝がたギルドマスターから呼び出された為、酒場へと向かっている。
相変わらず二人とも漆黒のナイト装備を身につけているが、羽帽子は被っておらず、その顔立ちが露わになっている。
ヴァンツは、すれ違う女達が思わず立ち止まって振り向くほどの端正な目鼻立ちに、深く紫がかった瞳、見事な彫刻のように引き締まった肉体。
右眼にだけかかるように垂らした前髪には、一筋だけ色が薄茶色の部分があり、後ろに流れるように立たせてある髪全体は装備と同じ漆黒である。
左耳には大きな羽の形をしたピアスを着けており、左の前髪は垂らしていない為にピアスが目立つ。
開いた胸元から見え隠れする首飾りも、ピアスと同様のデザインのようだ。
そして腰には長さの異なる二本の剣を帯びている。
一本は独特な形状の刀身をもちながらも、優雅な装飾が施された長剣である。
それに対し、もう一本は装飾も何もない武骨な造りの直刀。
直刀のほうはその短い刃渡りゆえに、ハンターが片手剣を帯びる場合と同じく、背中側の腰にぴったりとベルトに固定されていた。
その隣を歩くエルメリアも、絶えず周りの男達から視線を集めるほど美しい容姿をしている。
肩にかかるぐらいに伸ばした絹糸のような金髪は、歩を進めるリズムに合わせて優雅に揺れている。
肌の色は白く、唇は薄桃色で肉感的だ。
スタイルも良く、男性用のナイト装備と同じように開いた胸元はセクシーと言う他無い。
背には長さも造りも全く同じ双剣を背負っている。
今は鞘に納められているが、その軽く反った刀身は抜けば明らかに鋭いことが見て取れる。
ともかく、そんな二人が酒場に向かってゆくものだから、街の人々の視線は彼らに集中していた。
その視線から逃げるかのようにして、ヴァンツは早足で酒場の扉へと歩いていく。
その後ろをほとんど小走りでエルメリアがついていく。
早足の勢いのまま、ヴァンツは酒場の扉を開け放った。