Reading

□言葉無き会話
1ページ/1ページ

「君はひとりかい?」

高い建物の隙間

俯き座り込む少年に
一匹の黒猫が語りかけた

少年は俯いたまま頷いた

「そうかい」

黒猫はそう言うと立ち去った

少年は立ち去る黒猫を気にもせず
ただ座り込んでいた


それから幾日か経った朝

少年はまだそこにいた
生きているのかどうかさえ
分からないほどに痩せていた


そこへ黒猫がやってきて
座り込む少年に語りかけた

「君はひとりかい?」

少年は頷いた

「そうかい」

黒猫はそう言うと歩み寄り
少年の膝に乗った

「それなら僕が
そばにいてやろう」

少年の膝はとても冷たかった
黒猫はとても暖かかった


幾日かして少年は息絶えた
黒猫は少年に花を添えてやった

少年の死後もなお
黒猫は少年から離れなかった

少年の頬には
一筋の涙が伝っていた

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ