WHITE ROOM
□初恋発生理由、そして、条件
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「ユーリ!フレン!」
ハルルに着けば早速この街を守る花のような少女が駆けてきた。
桃色少女、もといエステリーゼは勢い良くフレンに抱きつくと久しぶりの再開を喜び、早く早くと二人を新居へと引っ張った。
現在エステリーゼは副帝として世界を広く見るため単身帝都を離れ、アスピオが崩壊してしまったリタと共にハルルに移住していた。
そして旅の途中で見つけた小さな夢、絵本作家としての仕事もしている。
リタのお手伝いと絵本の作業と家のことで目が回りそうですが毎日が新しいこととの出会いでとっても楽しいんです。
と花が咲くように笑ったエステリーゼを思
い出し、ユーリの口元は緩む。
まるで娘の成長を楽しんでいるかのような自分に軽く嫌気が差したが今は見ないフリで行こうと思う。
「遅かったわね」
家の前まで行くとそこには腕組をし仁王立ちするリタが立っていた。
「すまない、遅くなってしまって」
「これでも急いで来たんだぜ?」
「まぁいいわ。中入って」
誘われるがまま中に入ればさすが女性二人が住んでいる家だ可愛らしい装飾や人形が置かれ、狭さは少し感じるがなんだか心が和んだ。
「これは?」
床に目を遣れば大きな陣の様なモノが書かれていて思わずフレンが声を上げた。
「マナを集めるための陣よ。ゼクンドゥスの力とこの陣でマナを集束させてやっと術式が発動するらしいのよ」
「……らしい?」
「…ゼクンドゥス?」
リタの説明に対し二人がそれぞれ反応を示した。
「その術式は発動したことないのか?」
「そうなのよ。ガキンチョでも捕まえて実験しようと思ったんだけど、
子どもと精神がしっかりしていない人間には発動しないって言うのよ」
「へぇ」
いい?とリタが人差し指をユーリの前に突き出す。
どうやら頭が痛くなるような複雑な話を簡単に話してくれるようだ。
「術式には『発生理由』と『条件』そして『対象物』が必要になるの
『発生理由』は術者が詠唱し始めるかどうか。
『条件』はその術式に対するエネルギーがあるかどうか
そして『対象物』はその魔術をかけるもの
わかった?今回『対象物』だけ欠けてたからアンタ達を呼んだってわけ。」
「ほらなやっぱり俺達実験台なんじゃねーか…」
「当たり前じゃない。ちなみにゼクンドゥスは時の精霊のことよ」
「時を操る者、って意味です」
フレンの質問に遅くはなったがリタが答えると今回も名づけたのであろうエステルがその名の意味を教えてくれた。
「でもこんな大掛かりな術式…僕達死なないかな?」
「安心して。攻撃術式じゃないみたいだから」
「おっさんのストップフロウみたいなもんか?」
「多分ね。術式が良く似てるからそんな感じだと思う」
「はぁー…まぁいいか。やるならさっさとやろうぜ」
フレンを引きつれ自ら陣の真ん中に立つと先を促した。
正直早く帰りたいのだろう。
「さすが。話が早いわね」
愛用の帯をくるくる回し、術式を展開すると詠唱を開始した。
『時空彷徨いし者よ、我の呼びかけに答えて踊れ!』
二人はグッと瞳を閉じると急に詠唱をしていたリタの声が遠くなって真っ黒だった瞼の裏の世界から急に真っ白な世界へと放り出された。
『リター…ク……!!』
術式発動の声は途中で完全に聞こえなくなり、次に二人を待っていたのは硬い地面との衝突だった。