BLACK ROOM

□Elopement of Stars
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ユーリが髪をバッサリ切ってきた。

ビックリして「どうしたの!?」と問えば「もう必要ないからな」と短く返され、
それ以上深く追求出来ないような空気になってしまった。


それはフレンの結婚式、当日のことだった。






-Elopement of Stars-






天気は憎たらしいほどの快晴。
柄にもなく彼の瞳の色を思い出してしまってユーリは内心毒づいた。

愛おしそうに細められるその瞳に自分が写ることはもうないだろう。

噂によるとフレンのお相手はご丁寧なことに有力な貴族のご息女様で容姿端麗ときたもんだ。
誰もがフレンの相手に相応しいと声を揃え、あれよあれよとお見合いをさせ類を見ない速さで結婚を取り付けた。

凛々の明星のメンバーがこのことを知ったのは今から丁度三日前。
取り付く島も無いとはまさにこのことだ。


思考を巡らせているともう出なければ間に合わない程に時が過ぎていた。
会場の準備を凛々の明星は頼まれている。
ユーリは真っ白なタキシードに袖を通すともう一度空を見上げ教会へと足を向けた。








教会に着けば真っ先に髪の毛のことを言われた。

今まで散々似合わないと言われてきた白い服を着ているのにも関らず、だ。
皆どうしたの?やら親友に先を越されて悔しくて思わず切ったの?やら口々に言ってきた。

それらを全て適当にあしらい会場の準備にとり掛かる。
なぜだか特に一番どうしたの攻撃がひどかったエステルのことを思い出し思わず噴出しそうになった。

「さっぱりしていいんじゃないかしら」

唐突に一番最後にやってきたジュディスに後ろから声を掛けられた。

「ジュディ…頼むから気配消していきなり話しかけないでくれ…心臓に悪い」
「あら、全然驚いているように見えないのだけれど?」
「驚いたっつーの。それより遅かったな」
「レディは支度に時間が掛かるものなのよ」
「そりゃ失礼シマシタ」

普段の様に他愛のない会話をしていると怪訝な顔をしたカロルがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
そういえば誰かに会えていないとは思っていたがカロルだったとは。
ユーリは忘れていたことを心の中で軽く詫びると「カロル」と声を掛けた。

「どうしたの!?」

やはりそれかと苦笑を漏らすとカロルの頭をグリグリと撫でた。


「もう必要ないからな」


思わず出てしまった言葉にユーリ本人が一番驚いた顔をしたが、それは一瞬で直ぐにいつも通りのポーカーフェイスに戻っていた。

彼の僅かな変化に気付けたのはジュディスくらいなものだろう。
その時のユーリを見る彼女の瞳には様々な色が混じりあい、複雑な色をしていた。
ジュディスは誰にも見られぬことのないように瞳を伏せるとカロルの乱れた髪の毛を直してやった。

「まさかフレンに先越されちまうとはな」

そう笑いながら言うとカロルが本当だねと返してきた。
今日は『親友に先を越され悔しがる親友』を演じきると腹に決めてある。




なぜなら、自分とフレンの関係は誰も知らないのだから。
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