BLACK ROOM

□夜空に吠える
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「なんで」
「なんでもだ」
「どうして」
「どうしてもだ」
「ばかユーリ!」
「あほフレン!」




夜空に吠える。




「ねぇケンカしたの?」

カロルが器用にりんごの皮を剥き終え、塩水が張ってあるボウルの中に入れるとユーリを見上げた。

先程ユーリはフレンと部屋を出て行ったばかりのはずなのにもう戻ってきたのだ。

それも、かなりぶすくれた様子で。


「してねぇ」
「あら、嘘は良くないわ」


カロルの心遣いを一言で切り捨てようとしたユーリだったがそれはジュディスによって簡単に阻止される。


「アイツは…わかってねぇんだよ…」


観念したかのようにポツリと零すユーリに二人は目線だけで先を促した。


「一緒に暮らそうって言われたんだ」
「………」
「………」
「おいなんか言えよ」
「なんで?」
「どうして?」
「お前等までフレンと同じリアクションとらないでくれ…」


事の経緯はこうだ。

先の政略結婚事件のお陰ですっかり帝都中から公認の仲になったことだし、
フレンはこの辺りでけじめをつけようと考えたのだろう。

ユーリに一緒に暮らさないかと話を持ちかけたのだ。

実際幼い頃からユーリが騎士団を抜けるまではずっと一緒に暮らしてきたわけだし永遠の愛も誓い、二人きりでだが指輪も交換した。

誰もがユーリの答えはYESだ、と思っただろう。

しかしユーリの返した答えはNOだった。

これにはフレンも、そして今ユーリの話を聞いているカロルとジュディスも目を丸くした。

無理もないだろう。
周りから見ればユーリがこの話を断る理由はひとつも見当たらないからだ。


「それで?騎士様はなんて?」
「ばかユーリ、ってさ」
「そりゃ言うよ!ユーリばかだよ!」
「そうね。ばかね」


二人からの容赦無い攻撃にユーリが項垂れる。

最近皆自分に遠慮とか気遣いが掛けていると思ったが気兼ねないこの関係を気に入ってるのは他でもない自分であった。


「もうケーキ出来上がるよ」
「………」
「どうするつもりなの?」
「……う」
「早く」
「騎士様と」
「「話してきなさい」」
「…はい」


無理矢理に外に摘み出されると今度はラピードが待ち構えていた。

「なんだよお前もかよ…」
「ガウ!」

その通りだ!という様に吠えると付いて来い、とスタスタを前を歩き始めた。


「いつもの場所、な」


ユーリはそう一人ごちてあの時と同じオレンジ色に染まる空を一度見上げ、ラピードの後について歩いた。
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