BLACK ROOM

□重なる色
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「いい匂い」
「あぁ、おかえり」

一日の仕事を終え、家に帰ると彼がいた。
幼い頃からつい何年前までずっと一緒に暮らしていたというのに自宅に帰ると彼がいることが未だに僕は信じられなかった。

嬉しくて、自然と歩調も速くなる。

「お前、ちゃんと着替えてからこっちこいよ」
「早くユーリに会いたくて。でもちゃんと鎧は脱いだよ?」


彼は僕が鎧をつけたままでいることを嫌がる。

彼に言わせると鎧をつけた僕は「遠い」らしい。まったく可愛いことを言ってくれる。

それにしてもヤケに今日は料理が豪華だ。


「今日はなんだか豪華だね?ギルドの仕事お休みだったっけ?」
「…お前もしかして忘れてんの?」
「何?今日何かあった?」
「信じらんねぇ…」
「え?だって結婚記念日は…」
「だーっ!!何でそっち行くんだよ!いちいち恥ずかしいヤツだな!」


僕が分けも解らず目を見開いていると突然目の前が白と赤で多い尽くされた。


「誕生日」
「…あ」


僕の視界をいっぱいに埋めた白と赤はショートケーキで、彼の得意料理の一つでもある。

それにしても毎日の激務で自分の誕生日などすっかり忘れていたが、彼が覚えていてくれたことに自然と頬が緩んだ。


「笑ってんじゃねーよ。誕生日をお忘れになっていつまでもお若くありたいんですか騎士団長様は」
「そんなんじゃないよ」
「わーってんよ。ホラ、早く食おうぜ」


向かい合っていた体勢から彼がくるりと回る。

それに合わせるかのように揺れる長い黒髪がどうにも美しく見えてそっと手を伸ばす。

手を伸ばした先にあったそれはやはり期待通りの触り心地で僕はそのままその髪の毛に唇を落とした。

ふわりと、彼の匂いが僕の鼻腔をくすぐる。


「お前なぁ…」
「え?何?」
「何?じゃねーよこの天然王子」
「けなしてる?ほめてる?」
「半分ずつだな」
「なんか複雑だ」


でもさ、と僕が言葉を続ける。


「もし僕が王子ならユーリがお姫様だね」
「〜〜〜もうお前はケーキを食うな!!これは俺一人で食う!!」
「え!?僕の誕生日ケーキじゃないのか!?」
「うるせぇ!!お前は俺でも食ってハラァ壊しやがれ!!」
「お腹壊すのはユーリでしょ?」
「な!ん!で!中出し前提で話してんだよお前はァ!」
「いけなかった?」
「……処理はしろよ」
「まかせて!」
「輝くなっ!」


他愛の無い会話が僕たち二人の家を彩っていくのが日に日にわかるよ。

二人が毎日交代で立つこのキッチンは、何色に染まってゆくのだろう。

彼にあまり似合っていない水色のエプロンが楽しげに揺れるのを視界に捉え、笑顔になる。

明日は、僕が似合わない色のエプロンを身に着ける番だ。



END!



でもなぜか僕の当番なのにユーリが必ず手伝ってくれるんだ。

レシピをひたすら読み上げてるんだけど…どうしたんだろう?

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