BLACK ROOM
□殺戮トワイライト
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まだ別れを拒む瞼を無理矢理引き離し、すでに活動を開始しているアイツの背中
を見遣る。
案の定、その背中にはくっきりと赤い線が刻まれていた。
殺戮トワイライト
ソイツは俺が起きたことに気が付いてはいないのだろう忙しなく朝食の準備を進
めている。
格好は真面目なコイツにはそぐわなく、ズボンだけ身に付けた装いであり普段の騎士然としたコイツだけを見ている部下が見たら卒倒間違い無いだろう。
その様子が脳内にリアルに再生され、思わず噴き出しそうになるがギリギリのところで堪えることに成功した。
俺がすでに目を醒ましてしることは知られたくは無い。
アイツの視線と意識は完全に朝食の準備へと向けられ、俺はこの時間帯だけはコイツを観察すると決めていた。
普段日の光にまったく当たることが無いであろう身体は真っ白だが貧弱な印象は受けず、むしろしっかり鍛え抜かれた筋肉が主張をし易い色だと思う。
俺と同じ身長にも関わらず体重が4キロも重いのはこの筋肉のせいなのだろう。憎たらしいぜ。
俺はもう一度、コイツの背中。
肩甲骨付近に視線を遣った。
やはりそこにはくっきりと赤い線が刻まれていて俺は口端を吊り上げた。
その痛々しい真っ赤な線は昨夜俺がつけたものでまぁ平たく言ってしまえばひっかき傷だ。
アイツは痛いともうんとも言わず俺からの小さな攻撃を受け止める。
それがまた憎らしく、少しだけ嬉しくもありコイツの背中から爪痕が消える事は無い。
アイツが俺の身体にしつこいくらい所有印を散らすのと同じでソレが俺なりの所有印。
そしてソレを寝たフリしながら眺めるのが俺の日課と化している。
そのたびに、エステルが口にした昔話が脳裏で霞んだ。
肩甲骨の辺りには天使の翼が生えていたんです。
もし、もしもそれが本当だとしたら俺と行為をする度にコイツの天使の翼はむし
りとられていることになる。
罪悪感と優越感
俺の脳内はいつもこの二つだ。
きれいなきれいなお前を俺という穢れだ存在が触ることによって汚しているとい
う感覚は常にリアルで耐え難いほどの罪悪感を俺に与える。
しかしそれと同時にきれいなきれいなお前に触れられ、汚せるのは俺だけなのだ
と優越感に浸る。
どうにもたまに目の前から消えてしまいたい衝動にかられるが幼く情けない泣き
顔が容易に想像できて未だに実行に移せたことは一度もない。
「ユーリ、起きた?」
「ん」
「ふふ、おはよう」
なぁ、知ってるか?
愛し合った後の朝がくる度に、
お前の背中の傷をみる度に、
俺の中で優越感が勝ることを。
太陽に近付きすぎた英雄はロウで出来た翼を溶かされ地面に落下。
お前ならこれくらい知ってるだろ?
大丈夫だ。
お前の翼は俺がもぎ取ってやる。
太陽にだってお前を傷つけさせたくないんだ。
「おはよ、フレン」
止むことのない、殺戮トワイライト