ANOTHER ROOM

□ユーリとフレンのケンカを目の当たりにしました。
1ページ/3ページ

「ばかユーリ!わからずやっ!」
「おーおーどうせ分からず屋ですよこの石頭!」



*ユーリとフレンのケンカを目の当たりにしました。*




帝国とギルドで協力して作り上げた雪解けの光、オルニオンにてカロルは頭を抱
えた。
普段は頼れる兄貴分的なユーリ(21)が怒りの感情を露わにしているからだ。


確かに隠し事等してほしくはない。
だがこれは別問題だと声を荒げて叫びたい気持ちに駆られた。
今ならビックボイス大会で余裕で一位を狙えそうな勢いだ。

いつもキリリと閉まった目は別の意味でキリリと上へ釣り上がり本人にそんな気
は無いだろうがサラサラと流れるような黒髪は先程かきむしったせいでボサボサ
だ。

さらに極めつけは彼の頬だ。

膨らんでいる。

大きくなったらユーリみたいなカッコイイクールな男になりたい!
という思いが軽く揺らぐ程の見事な膨れっ面だ。

どうにかしてこの状況を打破したいカロルだが残念ながら『何があったの?』な
どと膨れっ面の必殺仕事人のようなオーラを醸し出している成人男性に聞く勇気
は到底今の自分には持ち合わせてなどいなかった。

ゾフェル氷刃海で身に付けた勇気に溢れたスキルはどうやら今回はお手上げらし
い。

すらりとその質問を行える、そうジュディスくらいの肝っ玉がこれほどまで欲し
いと願うことになるなんてカロル自身を含めて誰が思っただろう。

『せいねーんなんかあったのー?』
とKY宜しく軽く訪ねられそうなおっさんも
『なんなのようっとおしい!』
とファイアーボールをかましそうな魔導少女も
『フレンと何かあったんです?』
と直球に聞いてくれそうな桃色天然お姫様も
『バウワウッ!』
と今のユーリを見ただけでなぜ膨れっ面なのか解りそうな賢い犬もいない。

頼れる仲間はみなオルニオン周辺のモンスター討伐に出掛けている。
働き詰めの騎士団長代理様に少しの間だけでも休んで頂こうという皆の計らいだ
った。

もちろんカロルとユーリも行くと言ったがユーリはせっかくフレンの休みなのだ
からと一緒に居ろと言われ、カロルは時間を無駄にしない為にアイテムと食材の
買い出し役をクジで決めようとなり見事当たりクジを引いたのだ。

普段滅多に『アタリクジ』など引かない自分だ。何故だか今の状況に妙に納得が
いった。


それはもう意気揚々に
「せっかくみんなが作ってくれた休みだ。何して過ごす?」
「うーん…あ、あそこが建築途中なんだった」
「フーレーンー?」
「…すまないいつもの癖で…」
「まっお前らしいっちゃらしいな。」
「体を休めることも重要だとわかってはいるんだが…」
「無難にフレンの部屋でだらだらするか」
「そうだね」
と、話していた二人が最早懐かしく感じてきた。
カロルが現実から逃避を開始しようとした時、唐突に重苦しい宿屋の一室、つま
りこの部屋の扉が開いた。


「やっぱりさっきのは納得いかないよ!」


先に痺れを切らしたのはやはりと言うべきかフレンのほうだったようだ。

「上等だ。表出ろ」

愛用の細身の刀、ニバンボシを肩に乗せ膨れっ面は解除されたものの今度は完全
に目が据わっているユーリがドスの効いた声で応えた。

「やはり…剣で語り合ったほうがいいみたいだね…!」

声色はユーリに比べれば随分と柔らかいがこちらも完全に目が据わっている。

「町の外に行こう」
「もちろんだ」

ここで剣を交えてはせっかく出来た雪解けの光、オルニオンが崩壊するのはわか
っていただいているようでカロルはほっと胸を撫で下ろした。


ようやくこの重苦しい雰囲気から解放される!と思っていたカロルに
「カロル、審判頼む」
と声が掛かった。

審判?ケンカに審判などいるのだろうか。悪いが自分は初耳だったのでそのまま
無言で首を傾げた。

「そうだね今回のことは審判がいたほうがいいだろう。頼めるかい?」

目が据わっている成人男性二人にそんなことを言われ、断れる人がいたのならば
挙手をして欲しい。代わるからと心から思ったカロルだが無言で頷かるざるをえ
なかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ