ANOTHER ROOM
□花が咲く頃、あなたを攫っていいですか。
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『私はずっと、リタと一緒にいたいです』
そう言って笑ったエステルの言葉があたしの頭から離れてくれないの。
溜め息をついて視線は分厚い本のまま、リタはジュディスに言葉を投げた。
タルカロン出現によりアスピオが崩壊したため現在リタは家が無い。
それを心配したエステルが自分と一緒にハルルに移住しないかと話を持ち掛けたのだ。
今はフェイルティア号に寝泊まりさせてもらってはいるがそんな生活がいつまでも続くわけがないことはリタ本人が一番解っていた。
だから正直、エステルの申し出は助かる。だが、
「迷っているのね」
含みのある言い方でジュディスが笑うとリタは益々顔を分厚い本へと向けた。
そう。迷っている。
エステルの純粋な思いと、自分の汚い思いがあまりにも不釣合いすぎて。
「それで、返事はまだいただけてないんですか?」
「はい…やっぱりいきなりすぎたんでしょうか…」
花の街ハルル。
ヒラヒラと舞う花びらの下、まるで絵に描いたような王子様とお姫様の容姿を持つ二人がなにやら神妙な顔で話し合っていた。
「そんなことないですよ」
「フレン?」
王子様のような男…もといフレンはエステリーゼに優しく微笑み掛ける。
彼の煎れてくれた紅茶を味わいながら首を傾げるとフレンはそれがわかっていたかのように話を続けた。
「リタは素直ではない。この間エステリーゼ様がお話してくださったことです」
それに私は素直じゃない人間と20年以上一緒にいるのです。心情は大体わかりますよ。
と付け加え、クッキーをぱくりと頬張った。
「ふふ、ユーリのことですね」
「ええ。内緒ですよ?」
「じゃあリタが素直ではないことも、」
「ええ。内緒、ですね?」
花が咲くように二人は笑い合うとそこからは真剣に国政に関る重要な話題へと移
っていった。
エステリーゼは柔らかい笑顔を見せてはいたが心の底は不安でいっぱいであった。
そこにフレンは気が付いていたがそっと、見ないフリをした。
素直ではない相手を持つ場合、絶対に通らねばならない道だから。