捧げ物

□風呂
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鮮やかに蘇る日々にどこか切なさに似た思いもまた、同時にシオンを包み込んだ。
童虎も例外ではない。
が、直ぐになんとも言えない意地が悪い笑みを浮かべてシオンにまた声をかけた。

「のうシオン」

まだ浸っていたいと閉ざした瞳をそのままに、耳だけを傾けた。

「何だ?」

聞き返せば水面が揺れて小さく波を打つ。
少しこそばく感じ瞳を薄く開くと、童虎の顔が己の顔の間近にあり、シオンが目を見開き驚いていると。

「そらっ!」

「?!」

視界が暗く覆われる。
湯が溢れて大理石の床に打ち付けられて飛び散り広がる。
背に当たる冷たく固い感触。
眼に映る景色は一変して天井へ。

「ふふん、捕まえたぞ?」

勝ち誇るかのように己にまたがり笑う童虎に、シオンは自身に起こったことを素早く理解した。
手首は掴まれ、体は動かすことが出来ない。

「サイコキネシスか」

「御主には敵わぬが、少しは使えること、忘れておったか?」

腹に座り、掴んでいた両手を離すと、髪を指に巻き付け戯れる。
シオンは抵抗もせず、一連の動作を見ているのみである。
脚を絡ませもたれ掛かると、今度は童虎の視界が回転した。
長い髪が垂れ肌に触れる。

「不服か?」

「さぁのう」

首のラインをなぞるように撫でられ、微かに吐息が漏れる。

「お前から誘ってこようとはな。珍しいこともあるものだ」

腕を伸ばしシオンの首に絡めると、妖しく笑む。
男の性を刺激する扇情的な姿に、正直に応えてしまう己の身にシオンは知らず苦笑を浮かべた。
ゆっくりと降りてゆく面。
唇が触れるその瞬間。
誰も来ぬはずの浴場の、閉めたはずの戸が豪快に開けられた。
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