捧げ物

□健康
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入院に伴う細かな注意等を聞き終えると、カミュはそそくさと居なくなり、残されたデスマスクは十二宮の階段を煙草を吸いながら登っていく。
道すがら各宮の主と短い会話を交わして、自宮へと向かう。
巨蟹宮に到着してすぐに異変に気が付いたデスマスクが、向かおうと一歩踏み出した時、一陣の冷気が彼のすぐ脇を通り過ぎた。

「煙草は暫く控えろ」

宮の暗がりの中から現れたカミュに視線を向けつつ、煙草を吸おうとすれば、ひんやりと冷たい冷気が口内に流れ込む。
驚き目をやれば、火種が氷に変わっていた。

「テメッ、俺の煙草!」

「ポケットにあるものも没収させてもらうぞ」

素早く近付きポケットを漁ると一箱掴み出し、氷づけにすると、荷造りの為にまた奥へと引き返した。
一人取り残され不機嫌に舌打ちをしていると、引き返した筈のカミュが瞬く間に戻ってくる。
その手にはきちんと準備された荷物がぶら下がっている。

「ムウの所へ行くぞ」

物言いたげに口を開いたデスマスクを見て、カミュは先手を打って喋り、言葉を遮った。

「身から出た錆だ、文句は言わぬことだな」

白羊宮へとたどり着いた頃、もう一人の問題児が引き摺られながら到着した。
ミロである。
頭部に複数のたん瘤が出来ており来るまでに相当抵抗した後が残されていた。

「アイオリア〜、許してくれよぉ。もう引っ掛かるようなマネはしないからよぉ」

「泣き言を言うな、ミロ。みっともない」

目前を通り過ぎるある意味賑やかな二人を生温い目で見送り、残された二人も後に続く。
清んだ空気にミロのわめき声が微かに響く。
どうやら最後の悪足掻きをしているらしい。
アイオリアの怒声が反響し突き抜けて消えた時には、物音ひとつしなくなっていた。

「なんでついてくるんだよ」

先立って歩く背中に問いかければ真っ直ぐに前を見据えていた顔が僅かに傾く。

「目が離せんからだ」

返された答えに不服そうに眉をしかめ、紅い瞳がカミュを射た。
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