捧げ物
□旅行
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聖域の仕事を済ませ、シオンと童虎は休暇をとった。
休暇がとれたのは一週間。
その間、二人は温泉目当てで日本に滞在することとなり、アテナのイキな計らいにより、旅館で一番人気の部屋をあてがってもらえたのである。
童虎は明らかに浮かれている。
シオンはその横顔を眺めて微笑む。
シオンが彼の心の底から嬉しそうにする姿を見るのは前聖戦より少し前、まだ幼かった頃以来だった。
「どのような所か楽しみじゃのう、シオン!」
にっこりと満面の笑みを称える童虎に、シオンは心の中に穏やかなものが広がるのを感じた。
旅館に着いた二人は女将に連れられ部屋に通される。
童虎は窓辺に近寄ると、その絶景に驚く。
「美しい景色だな」
シオンは目を丸くする童虎に笑いかける。
そしてその耳元に近づき囁いた。
「お前には敵わないがな」
言葉の意味を理解するまで数秒、頬も耳も顔を全て真っ赤にする童虎はふてくされた。
その様子に喉の奥で含み笑った。
紅葉が秋風に吹かれ揺れる。
シオンと童虎は散歩に出ていた。
旅館の女将に隠れスポットに綺麗な夕焼けを見れる場所があると聞き、風呂を先に入りたいと渋る童虎を諭してシオンは連れ出した。
歩く道に敷き詰められた落ち葉の紅が果てしなく続く。
「なぁ、シオンよ」
「どうした?」
ずっと黙っていた童虎が不意にシオンに声をかけた。
空を仰ぎ見ながら、しかし直ぐに目線を落とした。
「この紅色を見ていると切なくなってくるのじゃ。前聖戦で命を落とした仲間達のことを思い出して」
伏し目がちに呟く表情は悲しげに笑う。
「聖戦が終わった時、夕陽を見ていて悲しかった」
「童虎」
「……わしらのしたことは、正しかったのかのう」
「正しい、か。それは私にも分からない。判断は後世の人々が下すだろう。ただ、今は新しい時代の若者達の道標として生きなければならん」
「そう、じゃな」
ふわりと風が吹き抜けて二人の髪を撫でる。
柔らかで優しい、風。