捧げ物

□受難
1ページ/9ページ

雲ひとつない蒼天が広がるギリシャ、聖域。
牡羊座のムウは朝から自宮に籠り、試験管を片手に中に入っている怪しげな色の液体を調合していた。
真剣な面持ちで食い入るように試験管を見詰める。

「……出来た」

呟き、彼はひっそりと笑う。
得体の知れない液体をどうやってか粉末状にし、可愛らしい小瓶に詰めた。

「教皇に頼まれたこの薬を持っていかなければなりませんね」

上機嫌な顔をして小瓶を見詰めるムウ。
そんな時、時計の振り子が音を鳴らした。

「おや?もうこんな時間でしたか。貴鬼ご飯に……そうでした、今日から一週間日本にお泊まりでしたっけ。仕方ありません、作り置きしていたカレー、私一人だけでは食べきれませんし、お裾分けでもしましょうか。どうせ急ぎませんし薬を届けるのは後でよいでしょう」

ムウは小瓶を懐にしまいこむと台所へ向かった。
カレーを分けながらも、ほかごとを考えていた彼は気づかなかった。
閉めていた筈の小瓶の蓋が開いていたことに。
そして悲劇は始まった。





その日、デスマスクは非番だったため、下町を何をするわけでもなくぶらぶらと歩いていた。
賑わう市場を抜けて偶然見つけた公園のベンチに腰かけて煙草をふかす。
彼はぼんやりと空を眺めては暇だとぼやいた。





東シベリアは相も変わらずの極寒地獄。
カミュもまた非番だった。
彼は弟子の一人であり現ポセイドン七将軍、クラーケンのアイザックを海底神殿から連れだし、修行のやり直しをさせていた。

「まだ倒れるには早いぞ!アイザック!」

黄金聖衣完全装備でとる指導は壮絶を極めた。
実戦指導まで付いてこれるようになったアイザックをカミュは手荒く迎えた。





暇を持て余したデスマスクは、聖域に戻ろうとしていた。
そんなおり、見知ったシルエットがこちらに向かってくるのが分かった。

「おーす、ミロ。お前今日休みじゃねぇだろ。何だ、さぼりか?」

ミロはデスマスクのすぐ隣まで来ると、軽く声をかけるデスマスクの頭を素早く固定し唇に食らいついた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ