捧げ物
□風呂
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飛沫が激しい水音と共に一面に飛び散る。
水が滴り落ちる髪を掻き上げ、息を一つ吐くと、童虎は腰を上げ風呂に向かった。
彼は入浴中であった。
奥行きがあり、ざっと百人は入れそうな広さを誇る聖域の風呂はとても快適で、尚且ついま童虎が入っているのは黄金聖闘士専用のものである。
誰もいない空間に一人のんびりと湯に浸かる。
湯船に浮かべている木製の風呂桶の中にはお猪口とお銚子が入れられていた。
よくよく見ればお猪口が一つではなく二つ置いてあっる。
童虎が大きく息を吐いてリラックスしていると、風呂場の戸が音をたてて開き、一人の青年が入ってきた。
戸を後ろ手に閉めると、彼は脇に抱えられている木製の桶に空いている左手を突っ込んで、中に入っていた手拭いを掴むと童虎に向かって放り投げた。
飛んできた手拭いを受け止め頭にのせながら、童虎は機嫌良く声をかける。
「遅かったのうシオン。待ちくたびれて逆上せるところだったぞ」
「仕事が長引いたのだ。仕方あるまい」
備え付けの腰掛けに座り、スポンジを手にとると、ボティーソープをつけて揉み込み、せっせと体を洗い始めた。
「ほう、御主は首から洗うのか」
シオンの背中をまじまじと見詰め、童虎は何気なく言った。
洗う場所を右腕に移しながら律儀にも返事をする。
「いや、洗い出しは決まってはおらん」
会話はそこで途切れ、沈黙する空間には水音だけが響いた。
童虎は冷えた腕を湯船に戻し、体制を変えると抱えていなかったためか、遠くに流された酒入りの桶を取りに行った。
暫くしてシオンが湯に浸かると、童虎は待ってましたと言わんばかりに、素早くお猪口を渡した。
互いに酒を注いで一気に飲み干すと、どちらともなく呟いた。
「御主とこうやって話すのはいつぶりかのう」
「覚えてはおらんが、少なくとも前聖戦以前のことだな」
思いを馳せるように目を瞑る。
口元は自ずと緩み微笑を称えた。