捧げ物

□早朝の客人
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開け放たれた窓の外、蒼く澄んだ空と柔らかな陽光が降り注ぐ。
穏やかに吹く風によって運ばれた甘い花の香りが、窓辺に寄りかかる日番谷の鼻孔をくすぐる。
うっすらと瞳を開いてみれば、目前に広がる春の訪れに自然と顔が綻ぶ。
日頃は騒がしい十番隊舎も早朝は静けさが際立つ。
小鳥の鳴く声に耳を傾けていると、不意に人の気配を感じ取る。
続いて近付いてくる霊圧に、彼は先程とはうって変わり疲れを滲ませ、面には眉間に力がこもっていた。

「おはよう、日番谷はん」

背後から抱きすくめてくる男に小さく溜め息を吐くと、まとわりつく腕から逃れ、未練がましく追ってくる手を払う。
払われた手のひらをぶらつかせながら男は己の腕から離れた日番谷をみやる。
連れないと呟きをもらすが、なおも瞳はその小さな体を見逃すことなく追っていた。

「何しに来た。市丸」

自席の椅子に座り、額に指をあて眉間を揉む。
刻まれた皺はことのほか頑固で、なかなか解れずにいた。
市丸はいつもの如く笑んでは距離を縮める。
真意を掴みかねる微笑みは他者から見れば、不快感や警戒心をあおぐ。
そんな彼を理解する者は意外に少なく、ごく一部の限られた人間でしか、表情の微妙な変化を見極めることが出来ない。

「ん〜、な〜んも。ただ日番谷はんに会いに来ただけ」

偽りでは無さそうであると判断した日番谷は、呆れたように眼を細め睨む。
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