捧げ物

□優雅なひととき
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日本、城戸財閥別邸。
冥界の使者として人界へ訪れていた死の神タナトスは、女神アテナの気遣いによりカノンと共に滞在していた。
すこぶる機嫌の良いタナトスとは対照的に、カノンは両肩を落とし魂が抜け出てしまうのではと思うほどの、重くながいため息を吐いた。
両手と背中に陣取る、荷物がこれでもかと詰め込まれたリュックサックと二つのスーツケースを乗せたキャリーを邸内へ運ぶ。
手伝うことなどなくさっさと行ってしまうタナトスにいささか怒りを覚えつつも、これが当たり前なのだと己に言い聞かせ、カノンは後に続いた。
普通ならば使用人が荷物を運ぶのだが、タナトスにとって彼等はただの邪魔者でしかなく、折角の逢瀬に他者は要らぬとアテナに発言し、彼女はその要求をのむと、使用人に休暇を与えることで別邸を二人だけの空間とした。
部屋数が多いため、どこを使えば良いかとカノンは視線をめぐらせた。
広いがまるで迷路のような邸内に、落ち着かない様子のカノンをタナトスは振り返り様にからかう。

「どうしたカノン?まるで弱った子犬のようだぞ」

「ああ?」

目尻を吊りあげ睨み付けるが、一笑に付される。
小さく舌打ち、ずり落ちてくるショルダーベルトを肩を揺すり元の位置へ戻した。
暫く歩き続けた結果、陽当たりの良い部屋をみつけ、カノンは荷物をすべて下ろすと首をゴキンと一つ鳴らした。
物珍しそうに部屋を物色するタナトスをそのままに、カノンは部屋を後にするとキッチンへと向かった。
キッチンは調理器具は言うまでもなく設備も揃っている。
しかし冷凍庫を覗けばガラリと空の空間があるばかり。
調味料はあれど、要の食材がなければ意味がない。

「なんか置いとけよ。役に立たねぇな」

愚痴を言いつつ、カノンは財布を取りに部屋へと戻った。
部屋にはタナトスの姿はない。
見学でもしに行ったのであろうとカノンは解釈した。
スーツケースの一つを開け、財布を取り出す。
入っていたコートを鷲掴み身に纏うと、玄関へ向かった。
ドアノブを回して開けると、冷たい外気が隙間から忍び込む。
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