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□月を愛でるもの
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「お前月見好きだよな」
「うん? そうだねぇ」
藍家貴陽別邸
その美しき庭園に降り注ぐ月を一緒見ないかと絳攸を誘った。
「君と月を見るのが好きだよ」
「何だそれは」
怪訝そうに眉間に皺を寄せる絳攸に
小さく笑みを漏らして酒に口をつける。
清明に澄みわたる蒼月は二人おも照らし絳攸の月の光を集めたような青銀の髪を一層輝かせる。
“君”と“月”を見るのが好きなんだ
鉄壁の理性だなんて自分を律して朝廷では眼差し一つ揺らす事ない君が
唯一私の言葉にはどれも真っ向から応え色んな顔を見せる。
ねぇ、絳攸
あれからどれくらいの時が流れたのだろう──
私は事あるごとに君を邸に誘ったね。
春、花見と称してみた桜の
─淡月────
夏の星空に飾られた
─涼月────
秋の名月はどこまでも澄み渡り
冷たく張り詰めた冬の夜空には照りわたる
─寒月────
私が愛でているのは何も天上の月だけではないんだよ
太陽の光を受けて輝く月のように
私は太陽のようなものではないけど
私の捧げる全てを返してくれる君が愛おしくて仕方がないんだよ
地上に降りた
私だけの
青銀月───
END.
月=絳攸
絳攸を大切に大切に愛している楸瑛の小噺。