深海の宝

□お買物の理由は
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・・・―――人事を司る吏部が1番忙しいのは、もちろん春の除目だが、秋ごろもそれに次いで忙しい

春夏を経て、一年の前半分の、各部署に潜入した覆面からの報告が上がってくる時期だからだ・・・

そういう理由でここひと月ほど、百合姫は絳攸とマトモに会話すら交わしていない


まず、帰って来ないことが多すぎるし、帰ってきても、文字通り、寝るためだけに帰ってきている状態で、ろくろく会話など交わす体力を絳攸は残していない


そんな状態の絳攸のことが心配で心配で仕方がないのと、話しも出来ない寂しさで、普段は至極温厚な百合姫が半ばキレた



ニッコリと、生来の美しい顔に、やはり美しい微笑みを浮かべて黎深の室に向かい、


「黎深様、明日、お仕事をするのですよ。明日絳攸が定時に帰れて、明後日の公休日もきちんととれるように・・・」


何の前置きもなく、入ってくるなりそんなことを言われて、憮然と文句を言おうとしたが、なんだかんだ言いつつもやはり夫婦というべきか、不満を口にする前に、黎深は気付いた


百合姫の語調がいつもと違うことに・・・

今までも、多少色濃く絳攸に疲れが滲んでくると、母として心配した百合姫は、


「黎深様、明日はぜひお仕事をしてあげてください。絳攸はが疲れているのを見るのは辛いですから」

と黎深に『お願い』してくることはあったが、今日は、

『仕事をするのですよ』と、お願いではなく、むしろ少し上から見下ろしたような言い方・・・


あまりに珍しかったから

「どうした?百合」

と思わず訊いた―――
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