記憶のかけら


□昔の話 ‐1‐
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過去のお仕事と上司の話です。


その職場は洋服の製造と卸をしていました。

規模は小さいですが仕事の内容は大変恵まれていて、色々と経験することが出来たんです。

その上司と言うのは正確には経営者でデザイナー。


仕事にはシビアですが「経験が無ければ今から経験すればいい」

そんな感じで

信じられないくらいのポジションを与えてくれました。


ある日、二人で社外の仕事に向かうため表参道を歩いていました。
 
でっ、ずっと気になっていた事を聞いてみました。
「何故こんなに色んな事をさせてくれるんですか?」

そしたら、迷わず直ぐに答えてくれました。

「苦労や下積みも悪くないけど、いきなり上からスタート出来るなら、その方が良いに決まってると思うから」

そう然り気無く言ってニコッと笑ってました。


その頃の私は、自分や彼女の代わりに雑誌の取材を受けたり

彼女の代わりに自社ブランドの撮影に立ち会ったり

プレスルームとショールームを兼ねているshopで、スタイリストやバイヤーの方の窓口だったり…
 
他にも本当に特別な経験をさせてもらいました。


でも彼女を人間的に「好きだった?」かと聞かれたら、どちらかと言うと苦手でした。

押しが強くて癖があるので、社内でも苦手な人の方が多かったと思います。


苦手だけど何だか彼女がどうしたら喜ぶかとか、どこまでブッチャケても大丈夫かが分かっていて…

それが良かったのか、ずいぶん可愛がってもらいました。


今でもその会社は有ります。

私が働いていた頃よりずっと大きくなってます。

そして私が知らない間に彼女は旅立っていました。

仕事で見せる顔と違い、綺麗な花束を抱いている乙女の様な彼女の心は、彼女がデザインした服に込められていました。


彼女に教えてもらった沢山の話やエピソードは、いつかまたお話ししたいと思います。
 
 

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