―天地を越えて― book
□夜紀のバレンタイン。
3ページ/6ページ
さて。
戦場へとやって参りました。
え、“戦場”じゃわからない?“学校”って言えばわかってもらえるだろう。
だって…渡す相手があれ、だからさ。
自分の教室に鞄を置き、ラッピングしたチョコを手に持ってあいつのいる1−Aに行く。
隣には、あつしがいる。だって…こいつのクラスに向かってるわけだしな。
俺が隣にいるから女子達はこちらにあまり寄ってこない。…にも関わらず、あつしの顔色は………悪い。
理由がわかりきってる所為か、声をかける気にはなれない。ただ、かけるとしたら…「ドンマイ」…ぐらいか。
あつしは教室の扉を開く。
『ツナ〜おはよー…って、
Σうわぁっ!!』
「黒金く〜〜〜んっ!受け取って〜!」
「黒金君、私のを貰って!!」
「駄目よっ!私のを貰ってもらうの!!」
なんか怖っ。
『……………よ、夜紀っ!!助けてくれっ!!!(冷汗)』
「無理。」
『即答すんなよ〜!』
いやぁ……だって、ねぇ…
女子の視線怖いし…
敵には回したくないし……面倒起こしたくないし…さ。
だから、ニコニコと笑っておく。
「笑う余裕あんなら助けろっ!」って叫んでるけど。関係ないよ、んなの。恩がある…っちゃあ、あるけどさ。
手伝うことを条件にやったから…あれは無し、ということぐらいあいつも理解してるだろうし。
『ツナ、助けてくれっ!!』
「今度は俺っ?!」
…女子の怖い目が綱吉の方へ向く。
あ、一瞬縮こまった。
「っていうか、顔色、どんどん悪くなってません?」
『え、マジ?……………。応接室行って、仕事してくる。恭弥に…咬み殺されるんの、ヤだし。』
そう言って、女子の中を抜けていった。
「………甘い物食べれないんですから、受け取れないって言えばいいのに。」
「え、あつしも?」
「はい。食べたらお腹壊すんですよ…って、“も”?」
「あ……雪音って子…夜紀なら知ってるかな?」
「えぇ、まぁ……」
「んで、彼女、駄目だったからさ…
そう言えば、あつしと雪音って…雰囲気とか、性格とか、似てるなぁ…」
………お前、色々と結びついてる点ができてるぞー……綱吉の中で。
まあ、似てる、で済んでるだけマシだけどよ。
「あ、夜紀が朝からうちのクラスにいるのは珍しいよね。誰かに用?」
「あ、はい。でも……」
俺はその人へと視線を向ける。
その人は女子に囲まれ、身動きできる状況ではない。静かに、溜め息を吐く。
あれは……絶対近づけないな。休み時間にする?いや…やめておこう。でも、行ってみる価値はあるぞ?
……………溜め息って、吐くだけ無駄ってわかってるけどさぁ…吐きたくなるな、こういう時。
「あ、山本に?…呼ぶ?」
「え、あ、いや!!いいです!!ホント、いいです、結構です…。それだと…不公平、ですから。」
「ふーん………?」
綱吉は目の前で首を傾げている。可愛らしいなぁ…と思う。って、俺は変態か!!
それに、男に可愛いって誉めても喜ばないのはわかりきってるはずだろっ!!
「と、とにかく、お気遣いありがとうございます……」
そう言って俺は教室を急いで出た。
綱吉が驚いたように目を見開いていた。