イナズマイレブン

□イナズマイレブン 春奈は弟
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「なんだ!今の一撃は!!」

と、本気で吹っ飛んだアフロディーを見ながら鬼道は言った。

試合開始直後。春奈の一撃がアフロディーを星にした。
正直、洒落にならない一撃だ。
いくら何でも、やり過ぎだろう。そう思う鬼道。でもって、今から戦わないといけないから人事で済まない。

「なんだって、必殺技?かな。」

と、可愛い声と笑顔で春奈は言った。
待て。なんで剣で必殺技とかあるんだ。サッカーに必殺技がある事を棚に上げながら鬼道は思った。
もしかしたら、アフロディーと組んで春奈を倒した方がよっぽど安全だったのでは?そう真剣に思ったが、後の祭りだ。

「大丈夫。お兄ちゃんに必殺技を使うなんて酷い事しないから。」

と、笑顔の春奈。
鬼道は、後ずさりたくなるほど黒いオーラが春奈から出ているのを見た。
春奈としては、一撃で鬼道を倒したいが、兄弟の情が邪魔をする。あと、星にしたら佐久間に怒られるので絶対にやれない。

「おい、放っといて大丈夫か?」

と、舞台袖で風丸が言った。
すると、隣にいた一之瀬が

「大丈夫じゃないかな。あれで、音無も鬼道のこと好きだしさ。」

と、楽しそうに言った。
一之瀬的に鬼道と春奈の兄弟対決は見ていて楽しい。
なので、心配してないし止める気は一切ない。

「ま、鬼道に何かあるって事は絶対ないし大丈夫だって。」

だって、鬼道に何かしたら佐久間がディバインアローとかの痛々しいシュートを決めてくるし。という言葉を心の中で付け足す一之瀬。
佐久間に嫌われるような事をするほど春奈は馬鹿じゃないって言うのもある。
たぶん、怪我人は出ないだろう。

「さ、決着をつけよう。」

と、言って剣を構える春奈。隙が一切ない。
鬼道は、本気でヤバいかもしれないと思った。
てか、春奈ってそんなに強かったのかと驚いている。
でもって、圧倒的な強さで春奈が圧している。鬼道は、当たったらタダじゃ済まなさそうな一撃を受け流すのが精一杯だ。
いや、本来の力の40%を出している春奈相手にそこまで生き延びれている事は凄い。

「鬼道さんも流石に音無相手じゃ、勝てないよな。」

と、カメラのシャッターを切りながら土門は呟いた。
たとえ、勝機があったとしても、春奈に手が出せない鬼道はそのチャンスを生かせない。
重症なブラコンの鬼道には始めから勝機などないのだ。

「土門。姿が見えないと思ったら、こんな所で写真を撮ってたんだな。」

絶対零度の寒気を感じた土門は、シャッターを切るのを止めて、恐る恐る声のした方を見る。
そこには、黒い笑顔の一之瀬がいた。

「よ、よう一之瀬。こんな所まで来たのか。」

「うん。二人の対決の結末は見えたからね。まあ、それをちゃんと見ててもよかったんだけど、土門がいないのが気になったんだよね。」

「そ、そうか。」

「で、まさかとは思うけど俺の写真は撮ってないよな?」

と、笑顔で一之瀬は聞いた。
土門は慌てて頷く。

「そう。ならいいんだ。でも、もしも一枚でも写真を撮ってたらどうなるか、分かってるよね?」

と、黒い笑顔で一之瀬は言った。
で、言いたいことだけ言って、舞台を見るために戻って行く。
土門は一之瀬がいなくなった後急いで、撮った写真の中から一之瀬の写真を自宅のパソコンに転送する。
そして、メモリーに残っている分は全て削除しておく。
後でばれたらどうなるんだろうか?それは、当事者のみぞ知るだ。

「受け流すので精一杯?そんな事では、負けてしまうよ。」

と、春奈。
その気になれば、一撃で鬼道を倒せるにもかかわらずそうしようとはしない。
それは、余裕の表れという訳ではなく、単に倒すに倒せないからに過ぎない。
いつでも倒せるだけの実力はある。でも、倒したら絶対に佐久間に泣かれるか、怒られてしまう。そのせいで、どうしても本気になれない。

「ほら、本気でかかってきなよ。まだ、本気じゃないんだよね?」

「大事な弟相手に本気になれるか。」

「まだそんな甘い事を言ってるの!僕達はねどう足掻いても本気でやり合うしかないんだよ!同じ人を好きになった時から!」

剣と剣がぶつかり合う中、周りには聞こえない声で二人は会話を続ける。
お互い、本気で戦えないぐらい兄弟としての絆が深い。
それでも、佐久間の事だけは譲れないのだ。特に、春奈の方は今現在、鬼道みたいに両想いではないだけに、余計に譲れない。
佐久間が鬼道を好きなのは分かっているが、それでも佐久間が好きで、振り向いて欲しい。
だから、どんな些細な事でも譲れない。

「確かに本気でやり合わないといけないかもしれない。でも、それでも俺は、お前と傷つけ合ってまで戦う事が、出来ないんだよ。」

春奈が本気でやり合おうとしているのに、自分がそれをしないのはダメな事なのだろう。
でも、それでも鬼道には春奈と本気で戦うなんて真似が出来ない。
大切な弟で、兄として守ってやらないといけない存在だから。だから、傷つける事が出来ない。
そんな鬼道の思いを分かっている春奈。だから、余計に本気で戦えなくなってしまう。
苦しいぐらい、佐久間も鬼道も好きで、佐久間を諦める事が出来なくて、それでも、本気で鬼道と戦う事が出来ない。それが、苦しくて、悔しくて、どうしていいのか、分からない。
それを、舞台横で見ていた佐久間は、耐えきれなくなる。
春奈が泣きそうなほど辛そうに剣を振る姿も、鬼道が一番大切にしている存在に剣を向けている姿も、見ているだけで心が苦しくなる。

「もう、いい!こんな戦い、無意味だ!」

見ている事が苦しくなった佐久間は、舞台に飛び出していた。

「無意味?それは違う。僕達はただ、愛しい者を手に入れるために、純粋な思いで戦っている。」

何で、このタイミングで出てきたりしたんだ?目で佐久間のそう訴えながら春奈は言った。

「無意味だよ。傷つけ合うなんて、そうまでして、争うなんて無意味だ。」

メガネが舞台袖から、口調が男になっていますよと、訴えているが佐久間は気が付いていない。

「これ以上、二人が心まで傷つけ合う姿を見るぐらいなら、俺は二人の前から姿を消す。見ているのが、苦しいんだ。」

それは、アドリブでもなく、素直な気持ちだった。
これ以上、二人が酷く傷つけ合い、傷つくぐらいなら自分なんていなくなった方がましだ。
やっと、分かりあえて、やっと、少しでも多くの時間を一緒に過ごせるようになったのだ。それなのに、傷つけ合うなんて、それも、自分のせいでそんな風な事をするなんて、見ている事が出来ない。
だから、争いの大本である自分が消えた方がよっぽどいいのだ。

「僕の負けでいい。どうやら、一番傷つけてはダメな人を傷つけたみたいだし。」

と、春奈は暗い声で言った。
強さって、何だろう?
ここにいる誰よりも喧嘩は強いけど、鬼道は倒せないし、佐久間を傷つけていた。
それは、強いって言えない。
力が強さじゃないのは知っていたけど、いざ答えを出せと言われたら、見当がつかない。
でも、今自分がしないといけないのは、大人しく諦めて戦うのを止める事だけだ。

「待て。それで、本当にいいのか?」

「ああ。だって、無意味みたいだから。僕らの戦いは。・・・・・・。意味のない戦いはしない主義なんだ。」

そう言って、春奈は舞台袖へと引っ込んだ。
そして、誰もいない場所に蹲って、舞台が終わるのを待つ。
鬼道と佐久間の結婚式のシーン。最後の場面を見るだけの勇気も、元気もない。
ただ、何もかもが終わって、また、いつもみたいな日常が来るのを待つしかできない。
そんな春奈の所にひょっこりと姿を見せたのは、一之瀬だった。

「お疲れ様。舞台、何とか無事におわれそうだよ。」

と、一之瀬は言った。

「そう。よかったね。」

小さな声で春奈は呟いた。
結局、負けたようなものだ。自分から戦いを止めて、逃げだしたんだから。
情けなさ過ぎて、泣く気にもなれない。

「見なくていいのか?ウェディングドレスの佐久間の姿。」

「別にいい。横にいるのがお兄ちゃんだし、見てるだけで辛い。」

それを聞いた一之瀬はため息をつきながら、春奈を強制的に舞台袖へと連れて行く。
余り、見たくない春奈はもがくが、腹黒モードのスイッチがオンになっている一之瀬の力には勝てない。

「一之瀬、遅いぞ。」

と、言ったのは鬼道。
何故かラストシーン用の衣装に着替えてない。
でもって、舞台は本来なかったシンデレラと父親との墓参りのシーンになっている。
一体、自分がいない間に何があったんだと、少しだけ舞台を覗きながら春奈は思った。

「ラストシーンは、お前が出るんだ。」

「へ?」

鬼道のいきなりの言葉に、つい、変な声を出してしまう春奈。
でもって、一之瀬がラスト用の衣装を差し出す。

「その為の場面は全て終わらしてある。」

と、鬼道。

「音無がいない状態でその場面にするの大変だったんだよ。」

と、笑いながら一之瀬は言った。
まあ、一之瀬は春奈を探しに行っただけで、ほとんど何もしていないが。
たぶん、頑張ったのは鬼道と佐久間と影野だ。3人でなんとか、無理矢理感あふれるが、ラストシーンは鬼道とではなく、春奈とがなるようにした。

「ほら、早く着替えろ。時間が切羽詰まってるんだ。」

と、鬼道は言った。

「いいの?僕が出たりして?」

「ああ。あの馬鹿アフロディーを何とかしたり、舞台がなんとかラストまで漕ぎ着ける事が出来たのは春奈のおかげだからな。」

「そのご褒美とでも思ったらいいよ。ほら、早く着替える。」

二人にそうせっつかれ、春奈は急いで服を着替えた。
もともと鬼道用に作っていた衣裳なので、サイズが少し大きいが、変ではない。

「似合うね。」

と、一之瀬。
鬼道も、春奈の白いタキシード姿を嬉しそうに見ている。

「ほら、ラストシーン始まるよ。どうすればいいかは、練習見てたから分かるよね?」

「う、うん。」

舞台が暗転して、背景やら置いている物が慌ただしく取りかえられていく。
春奈は急いで舞台への中心へと移動していく。
でも、舞台に出る前に鬼道に

「ありがとう。お兄ちゃん。」

と、一度抱きついてから、舞台へと出て行く。
鬼道は、照れくさそうな表情をしてから、結婚式の参列者として舞台の端に出て行く。
場面は協会。佐久間と永遠の愛を誓う場面だ。この上なく佐久間の花嫁姿が綺麗で、その姿が見れただけでも充分嬉しいけど、佐久間の隣に自分が今、一時的に入れる事が、幸せだと思う。
本当に、自分がいない状態でよくこの場面に自分が出れるようにしたな。そう思う春奈。
でもって、神父役はメガネだ。

「それでは、指輪の交換をして誓いの口づけをして下さい。」

と、メガネ。
春奈は佐久間の指に、佐久間は春奈の指に、少し大き過ぎる指輪をはめる。
やはり、鬼道用で用意していたから指輪のサイズが合わない。
それにしても、本気でキスしたら鬼道に後で怒られるかな?そんな事を考えてしまう春奈。
でも、そう言う場面でそう言う役だし仕方ないよね?
どうしようもない言い訳を心の中でしながら、春奈は佐久間に口づける。
佐久間との2度目のキス。1度目と違ってちょっと長くて、深いキスだ。
そんな春奈と佐久間を見るのが内心面白くはない鬼道だが、今回は自分が言い出してしまった事なので我慢する。
そして、ついに幕は降り、波乱の演劇は無事に終了した。
今回は、結構美味しい所も持って行けたみたいだし、報われたなと思う春奈。
ま、それでも佐久間に関する戦いは終わってないし、負けている状態だ。
これからも、めげずに頑張ろう。そう前向きな気持ちになりながら、わざわざ役を譲ってくれた鬼道と苦労した奴らに感謝するのであった。


そして後日。土門が撮った劇の画像は7万とかつてない高額な値段で取引された。無論、春奈が脅して1000円で購入したのは言うまでもない。
あと、佐久間も春奈と鬼道がいつものような仲良し兄弟に戻ってくれたので、ホッとしているのであった。
バカをやったアフロディーと源王以外めでたしめでたしであった。
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