イナズマイレブン

□傘と猫
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その日、成神は久々に部活をサボってCDショップに買い物をしに行っていた。
欲しいCDがたくさんあったし、寺門の怒鳴り声を聞きたくないというのが、サボった理由だった。
まあ、辺見に抱きつけないのは残念で仕方ないが、どうしてもCDが欲しかったし、寺門の怒鳴り声を聞きたくなかったのだ。
抱きつけなかった分は明日朝からくっ付いて補う事にして、とりあえず今は買い物をして、ぶらぶらとする成神であった。

そうやって、放課後の寄り道などを楽しんでいると、急に雨が降り始めた。
成神は、ああ、五条の天気予報通りだな。そんな事を思って、持っていた傘を広げた。
五条の天気予報はテレビでやっている天気予報よりも高い確率で当たるのだ。
だから、午後から雨だと言われていたので、傘をわざわざ持ち歩いていた。
おかげで荷物は無事。
本当に何も言う事はない様な一日だった。
だから、ちょっといつもと気分を変えて、公園を抜けて帰る事にした。


公園内は木の下に避難している人や、走って雨宿りを出来る場所を探している人が少しいる程度で、あまり人がいない。
だから、気づいてしまった。
公園の木の下でうずくまってる見覚えのある人影に。
成神は一瞬自分の目を疑った。
だって、まさか、木の下に辺見がいるなんて思わなかったから。
見間違いかと思って、よく見るが、あの前髪を上げた独特の髪型と、目つきの悪さは間違いなく辺見だった。
何故、辺見が公園の木の下でうずくまっているんだ?
成神にはさっぱり分からない。
だから、なんでいるのか知りたくて、あと、このまま雨に濡れて、辺見が風邪をひいたら大変だから声をかける。
これが寺門とかなら見なかった事にしていただろう。

「先輩、ここで何してるんですか?」

と、辺見に近寄りながら成神は言った。
辺見は、急に声をかけられて、慌てて声の主を見た。
そして、成神だったので少しほっとする。
でも、いつものように出来るだけ、ぶっきらぼうに

「別に。」

と、短く答えた。
正直、ここでうずくまっている理由を知られたくない。
たとえ誰であろうと辺見としては知られたくない。

「でも、こんな所にいたら風邪ひくよ。送ってあげるから、相合い傘して帰ろうよ。」

と、成神は言った。
一瞬辺見は立ち上がってしまいそうになるが、すぐに思い直して、座り込む。
成神は辺見が素直に応じてくれなかった事にショックを受ける。
なんだかんだ文句を言いながらも、相合い傘をしてくれると考えていたから、かなりダメージは大きい。
で、成神が一人で落ち込んでいると

「みゃ〜。」

と、不意に猫の鳴き声がした。

「うを!こら、濡れるから出て来るな。」

と、言って膝の上に乗せている子猫に辺見は言った。
今、物凄く辺見の目が優しい。
そんな辺見をつい、じっと見てしまう成神。
すると、成神がいた事を思い出した辺見は

「帰れーー!そして、今見た事を忘れろ!!」

と、叫んだ。

「なんだ、子猫を雨から守ってたんだ。やっぱり先輩って猫好きだね。」

と、成神が笑いながら言った。
すると辺見は耳まで赤くしながら

「うるさい!」

と、一言だけ言って、子猫へと視線を戻してしまう。
そして、完全に子猫と二人だけの世界へと入ってしまう。
成神は、ちょっと嫉妬しながらも、子猫と辺見の為に傘を貸すために横に座り込む。

「これなら濡れないよね。」

「なんだよ、さっさと帰れよ。」

嬉しいのを表情に出さないようにしながら辺見は言った。
すると成神は、相変わらず素直じゃないよなと、思いながら辺見を見る。

「先輩が帰るまで一緒にいる〜。」

「勝手にしろ。てか、どうせなら傘、コンビニで買ってこいよな。」

子猫から目を離さずに辺見は言った。
成神は、こっちを見て言って欲しいんだけどなと思いながらも、何も言わずに辺見を見る。
今の辺見の表情は緩みまくっていて、凄くにやけていて、面白い。
明らかに学校で見るのは不可能な表情だった。

『だから、送ってあげるよ。あ、もしかして猫を抱っこしてる姿を見られるのが恥ずかしいんでしょ。なら、俺が抱っこしておくから、先輩は荷物と傘持ってよ。』

とか、言っても辺見は承諾しないだろう。
だから成神は

「先輩、俺もその猫抱っこしたい〜。」

と、明るく言った。
すると辺見は

「大事に扱えよ!怪我されすなよ!何かあっても死守しろよ!」

と、言って成神に子猫をそっと渡す。
成神は、子猫に対してとことん過保護な辺見が少し可愛くて、つい、笑ってしまう。
で、子猫は死ぬほど丁寧に抱っこした。
成神が子猫を抱っこすると、辺見が荷物と傘を持って、

「よし、俺の家に行くぞ。このままだと子猫が風邪ひくからな。」

と、言って立ち上がる。
成神も子猫に何かあったりしないように慎重に立ち上がった。
成神は、予想通りの辺見の行動に、心の中でガッツポーズを取る。
念願の相合い傘を辺見と出来るのだから。
でも、荷物と子猫だけを死守する形で距離を取りながら傘をさすのは止めて欲しい。なんのための相合い傘か分からない。

「先輩、もうちょいくっ付かないと先輩が濡れちゃうよ〜。」

「別に俺はその子猫さえ無事なら問題は一切ない。」

と、断言する辺見。
成神は、もう少し自分を大事にしてよ,
と思う。
辺見はたまに無茶をしてしまう傾向があるから心配なのだ。
結構前に猫を助けるためだけに帝国で一番高い木に登ってたこともあるし、流れの速い川に迷わず飛び込んだこともある。
だから余計に心配なのだ。

「でも、くっ付いたら濡れなくて済むよ。」

「別にいい。」

「えーー!なんか俺が先輩苛めてるみたいでいやだ。」

「っち、分かったよ。でも、今日だけだからな!!」

と、言って辺見は成神にくっ付く。
辺見としては物凄く恥ずかしい気がするが、嬉しくもある。

「えへへ。ね、先輩。この子猫どうするの?」

と、成神が聞くと辺見は

「お前に連れて帰らせる。」

と、即答した。

「え!俺が飼うの!!」

「冗談だ。お前なんかに飼わせたら、そいつが可哀想過ぎる。俺が飼う。」

と、微笑んでいるような表情で辺見は言った。
猫に対しては、本当に表情が和らぐというか、にやけるよな。てか、普段の無愛想ぶりが嘘みたいだよな。
そんな事を成神は思った。
そして、たまにはそんな表情を自分にも向けて欲しいな、なんて、一生叶いそうにない事を思った。

「可哀想って、俺が世話できないみたいな言い方だよね。」

「事実出来ないだろ?」

「そんな事ないもん。」

「どうだか。てか、くっつき過ぎだろ。」

「そんな事ないよーだ。」

と、まあ、珍しく辺見が機嫌良く成神と会話をしながら帰っているせいか、雨はますます強くなる。
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