捧げ物
□あなたと俺の鼓動は?
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時折、帝国サッカー部の部室には妙なものが置かれている。
たとえば、心拍数を測る機械&長机。
何でそんなものが置いてあるかと言えば、五条が作るから。
そして、なぜか置いて帰るから。
大抵は、成神が壊して粗大ゴミにされたり、寺門が何でじゃーーとか叫んで壊して粗大ゴミにされて終わる。
だから、鬼道の自主トレが終わるころにはなくなっているのだが、今日は珍しく置いてあった。
「部室だよな?」
と、心電図セットが置いてある部室を見て鬼道は呟いた。
隣にいる佐久間も、なんでだと言った表情で心電図セットを見ている。
「部室ですよ。そして、これは五条が置いて帰ったんですよ。ほら、あいつ、妙なもの置いて帰りますから。」
と、困った表情を浮かべて佐久間は言った。
すると鬼道はなるほどと納得してしまう。
五条なら何でもありだから、軽く流せるのだ。
と言うか、流さないと人として負けのような気がしている。
「なるほど。それにしてもよく、成神と寺門に壊されなかったな。」
「きっと、二人が帰った後に置いて行ったんじゃないですか?今日は五条、遅かったですし。」
「そうか。ところで、これ、使えるのか?」
心電図は鬼道も珍しいのか、少し興味を持っている様子だった。
佐久間としても、使えるのか少し気になる。まあ、五条が置いて言ったものだろうから、使えるような気はするが。
「えっと、試してみたら分かりますよ。」
「なるほど。よし、佐久間。机の上に上着を脱いで横になれ。」
一瞬、鬼道の目が妖しく光った気がする佐久間。
でも、気のせいだよなと、無理に思い込み、素直に従う。
たまに、鬼道に逆らえない自分の性格を直したいと佐久間は思うが、完全に定着し切っていて直りそうになかった。
それが、毎回毎回自分の身体を追いつめているのだが、直せないのだ。
「確か、心電図は数か所に付けるんだったよな?これ、1本しか付ける部分がないぞ。」
機械をいじりながら鬼道は言った。
すると佐久間は、上半身を起こして、
「ホントですね。あ、すでに成神が壊した後なんじゃないですか?」
使えなかったら、使えなかったで面倒な事になりそうな気がした。
鬼道が二人きりの状態で何かしないはずがないし。
と言うか、それが分かっていながら上着を脱いでる自分は終わっていると思ったが、仕方ない。
「また、あいつか。まったく、中途半端に物を壊すから性質が悪い。」
と、愚痴る鬼道。
佐久間としては、それも十分性質が悪いが、原形を留めないほど壊す寺門も性質が悪いと思う。
毎回寺門によって、五条が置いて行った機械は粉々に近いぐらい壊されるのだ。
「ま、壊れてるみたいですし、そろそろ帰りましょうよ。」
「そうだな。」
渋々と頷く鬼道。
これは、もしや自分、無事でいられるんじゃないか?そんな淡い期待を持つ佐久間。
しかし、その期待は鬼道がロッカーを開けて、五条からの贈り物と思われる取扱説明書を読んだ瞬間に消え去った。
「これ、1本でいいそうだ。と言うか、そう言う設計にしたらしい。」
と、鬼道は言った。
佐久間は、
五条の馬鹿ーーー!なんで取扱説明書を鬼道さんのロッカーに入れてるんだ!
と、心の中で絶叫する。
それにしても、心電図、繋ぐの1本でホントにいいのか?ああ、でも、五条が作ったならそれもありか。
というか、自分、なんか強制的に鬼道さんに長机の上に寝転ばされてるんですが?
色々と思う佐久間。
で、心臓の辺りに装置を繋がれる。
「って!音、流れるんですか!」
電源を入れた途端、自分の心臓の音が流れだしたので、つい、佐久間はツッコミを入れてしまう。
感情が少し高ぶっているせいか、鼓動がやけに早い。
「みたいだな。さすが五条。」
「褒めるんですね・・・・・・。」
「褒めるだろ。こんなにもお前の心臓の音がはっきりと聞けるんだから。」
などと楽しそうに鬼道は言った。
佐久間は、何となく恥ずかしい。そのせいで、心音が早くなる。
「お前は俺の心音聞いてるだろうが、俺は、聞く機会がないんだから、この機会によく聞かせてくれ。」
それなら、直接聞いてくださいよ。そんな言葉が喉元まで出そうになる。
ただ、言ったらしばらく鬼道の家に連れ込まれて、抱き枕代わりにされそうな気がしたので言わなかった。
「恥ずかしいから、その、出来れば、外してください。」
「なら、心音の代わりに別の音を聞かせてくれ。そうしたら、外してやる。」
と、言って鬼道は佐久間の上に圧し掛かる。
佐久間は、結局このパターンなんだと思ってしまった。
でもって、鬼道に押し倒される形になったせいでますます鼓動が速くなる。
「えっと、外さなくていいんで、別の音を聞かせるのは勘弁して欲しいなーなんて。」
少し、乾いた笑顔で佐久間は言った。
すると鬼道は
「なら、両方とも聞かせて貰おうか。最近、かまって貰ってなかったからな。」
と、言って笑った。
佐久間は、たった3日してなかっただけで、そこまで意地悪するのはどうなんですか?そう言いたかった。
でも、それを言う前に鬼道の熱いキスを受けてしまう。
逃げたいなとか思っていた割に、いざ、キスをされると佐久間は素直に応じてしまった。
そして、しばらくしてキスを終えると佐久間は
「鬼道さん、もっと、キスしてください。」
と、自分からキスをねだる。
この前のキスから、3日しか経っていないはずなのに、どうしても欲しくなってしまった。
「素直だな。」
と、言って鬼道は再び佐久間にキスをした。
キスだけで、また、鼓動の音が速くなっている。これ、このまま続けたら機械が壊れるぐらい早くなるんじゃないか?
鬼道とのキスを味わいながら佐久間は思った。
と言うか、キスしただけで、心音が流れている事がどうでもよくなり始めてしまっている。