イナズマイレブン

□大好きな幼馴染
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いつもと同じように円堂の夢を見て、いつもと同じように目を覚ます。
それは、風丸にとって何一つとして変わらない平穏な朝。
少しボーっとする頭で、どんな円堂との夢を見たかノートに書いて、顔を洗いに洗面所へ行く。
ひんやりと冷たい水で顔を洗い、眠気を覚ます。
その後は、服を着替えて、朝食を食べる。そんな平凡な朝のはずだった。

でも、その朝はそんな風に行かなかった。
洗面台で顔を洗い、服を脱いで鏡に映った自分をふと見た瞬間

「どうなってんだーーー!!」

そう、叫んでいた。
慌てて自分の体に触れると、そこには本来あるはずのない胸の膨らみがあった。
女子の感覚でいけば小さ目ぐらいのサイズの膨らみだが、風丸にとっては一大事としか言いようがない。

「一ちゃん、どうかしたの?」

のん気な声が聞こえて来た。
風丸は、不味いと思ったが、その時には遅かった。
よりにもよって、母親に女になってしまった姿を見られてしまっていた。
人生、終わったかもしれない。そんな事を真剣に思った風丸 一郎太(昨日までは男だった)であった。


「朝気がついたら女の子になってたなんて、素敵ね。この機会に名前を変えてアイドルデビューしちゃいなさいよ。」

朝食を食べながら風丸の母は言った。
どこか世間一般とずれていて、のんびりとしている風丸の母は、風丸が女になった事に全く驚いていない。むしろ、嬉しそうだ。

「なんで俺がアイドルデビューなんてしないといけないんだよ。」

「だって〜、一ちゃんって、元々女の子みたいに綺麗だから、絶対に売れると思うのよ〜。」

と、嬉しそうな、でもって、おっとりとした話し方で風丸の母は言った。
風丸としても、自分の顔がそこら辺の女子より綺麗なのは自覚している。
実際、街に行くとスカウトされる事もあるし、かなりの高確率で初対面の奴は風丸を女子と間違える。
たぶん、今まで間違えたなったのは円堂と、同じ美少女顔をした佐久間ぐらいだ。

「私ね、一ちゃんには、一郎太、なんて男らしい名前、似合わないってずっと思ってたのよ。本当は、まどか、って女の子みたいな名前にしたかったのよ。」

と、今月に入って39回目の名前の話を始めた。
風丸の母は風丸の一郎太という名前を気に入っていない。
そのため、週に5回ぐらいは名前に文句をつける。ま、風丸としてはいつもの事なので軽く聞き流す。そして、自分に男らしい名前を付けてくれた父親に感謝した。
この顔で女の子みたいな名前だったら、本気で人生悲惨だった気がする。

「ね、どうせ女の子になったんだから、女子の制服着て学校に行ったら?お母さん、連絡入れておくわよ。」

「もし、俺が女になったなんて誰かに話したら、俺は、引きこもりになる!」

そう断言して、風丸は黙々と朝食をとる。
とにかく、何とかしないと不味い。どうすれば元に戻れるのか、手段を見つけないと。
そんな事を真剣に考えている息子に母親は残念そうな表情を向ける。

前途多難な気配がひしひしとする中、風丸は学校へ行くことにした。
家にいたらストレスが溜まる。


「風丸。おはよー!」

そう言って、風丸に抱きつく円堂。
普段の円堂からは考えられない姿だ。でも、結構昔から風丸にはこんな感じだった。

「おはよう。円んん!」

風丸が言い終える前に円堂が風丸の唇を奪う。
朝から濃厚なキスをされ、風丸は、またか。そう思った。

「やっぱり、おはようのキスしないと朝って感じしないんだよな。」

と、円堂。
毎朝毎朝人がいないのを確認しては、抱きつくし、キスしてくるし、本当の困った恋人だ。
でも、何よりも困っているのは、円堂が普段は人当たりの良い熱血、鈍感を装っているが、誰よりも嫉妬深くて、風丸に妙な意地悪をしてくる事だ。
付き合う前から何回泣かされた事か。

「バカ!バカ!いつも言ってるよな?人がいたらヤバいから、外でキスするなって!」

これも毎日言っているが円堂は反省しない。
絶対に、

「大丈夫。どう見ても風丸は女の子にしか見えないから。」

そう言って、笑うのだ。
これが風丸にとっての変わらない朝なんだが、今日は色々と不安だった。
もし、女になっただなんてばれたら、円堂と破局する。
だって、円堂は女子に興味がないから。
それを風丸が知ったのは、去年の事だった。
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